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おすすめ本

2019年3月24日 (日)

「わたしの本当の子どもたち」

ジョー・ウォルトン「わたしの本当の子どもたち」創元推理文庫

一つの選択で、人生が全く変わったとしたら‥?
パラレルワールドのような2つの人生を振り返る女性。

2015年、パトリシアは老人ホームにいて、混乱していました。
子どもが3人だったのか4人だったのか、自分の人生のいろいろなことが二通り思い浮かぶのです。
医者には認知症と思われるだけですが。

1926年生まれのパトリシア。
大学のときにマークと付き合い始めたことで、人生の岐路ができます。パトリシアの愛称はいくつもあり、こちらの世界ではトリッシュのほうが素敵だとそう呼ばれるようになっていました。
熱烈なラブレターを信じて結婚したトリッシュですが、牧師の息子で堅物のマークは、子どもを作るのは義務と考える古めかしい?男。
流産を含めた妊娠6回、苦労するトリッシュでしたが~4人の子どもはそれぞれ個性的に育ちます。

結婚を断った方は、パットと呼ばれています。
イタリア旅行に行ってガイド本を書いたのをきっかけに評価され、順調に仕事をしていきます。
植物学者の女性ビイと愛し合い、カメラマンの友人マイケルに精子提供してもらって子どもをもうけます。

世界の出来事は、どちらも史実とは少し違っています。
そして、どちらも、良いことばかりではない。
そのあたり、決して単純ではないけれど、密かに文明批評の針が仕込まれているような。
一つの選択で道はわかれるが、どちらが正しい、というわけでもない? そこに深みが感じられます。
きめ細かな描写でどちらもリアリティがあり、2倍楽しめるというか、これほど複雑な話でもパトリシアの気持ちはわかりやすく、切ないものがあります。

作者は「ドラゴンがいっぱい!」、「ファージング」三部作、「図書館の魔法」で知られるSF作家。
この作品も評価が高いですね。
しみじみとした味わいと余韻に、感動しました。

2014年12月24日 (水)

「図書室の魔法 下」

ジョー・ウォルトン「図書室の魔法 下」創元SF文庫

本好きには楽しい魅惑の物語、後半。
ファンタジーですが、少女の日記の中にSFを読んだ感想がいっぱい。
読書クラブの仲間に出会った幸福に溢れています。

生まれ育ったウェールズから、イングランドの寄宿学校へ。
家でも学校でも孤立しがちな15歳の少女モリ。
同じようにはみ出し気味の級友を見つけ、だんだん友達付き合いも増やしていきます。
でも自然の中にフェアリーが見えるのは自分だけ、双子の妹をなくしたのも自分だけ、悪意を向けてくるとんでもない母親と対決しなければならないのも自分だけ。
誰にも話せないそういう経験から大人びている面もありますが、まだブラジャーの買い方もよくわからなかったり。
そういうところから、恋を知り、世界が広がって行きます。

事故で不自由になった片脚を引きずっていますが、体育の間、見学する代わりに図書室で思う存分、本を読めることになったのが救いでした。
町の図書館に集まる読書クラブに入れることになり、生まれて初めて、話の合う仲間が出来るのです。
この喜びは本好きならわかりますよねえ‥特にSF好きなら。
本を大量に読む子はそういないし、趣味が合うとなるとさらに難しい。
私は、SFはずっと前に読んだきりでよく覚えていないのが多いんですが、それでも、そうそう!とわかったり笑ったり、これ読んでないかも~読みたい!という気になったり。

読書クラブで知り合った2歳上のウィムはとてもハンサムで、本の趣味もかなり合いそう。
前のGFと悪い噂があったため、近づかないように忠告されたりもしたのですが。
魔法やフェアリーに興味のあるウィムを森に誘い、フェアリーを見られるかどうか試してみるのが初デートという。

この作品はすべてモリの手記という形で語られ、しかもすべてが事実ではないかもしれないですよ、と冒頭に書かれています。
普通にファンタジーと読んでさしつかえない内容ですが、どこかは少女の空想と解釈することも出来るのです。
「指輪物語」をこよなく愛する少女ですからね。
そのへんの解釈は、お好みで?

1979年に15歳、というのは作者自身の年齢と同じ。
作者はウェールズの町で育ち、15歳ではなく大学でイングランドに行っています。
読んだ本の感想や、15歳ならではのちぐはぐな感覚は、おそらく当時を思い出して書いた部分が多いのでしょう。
当時、空想していたことも含まれているのでは?
自分にある問題を別な形に置き換えたり、平凡な自分にはない不幸をドラマチックに想像したり。
いえ私は丸ごと、こんな子だったわけじゃありませんよ~という、照れ隠しなんじゃないかな~という気がしています。

2014年12月23日 (火)

「図書室の魔法 上」

ジョー・ウォルトン「図書室の魔法」創元SF文庫

ジョー・ウォルトンの新たな魅力。
15歳の本好きな少女の視点で、寄宿学校の生活に、フェアリーと魔法が絡む物語。

モリことモルウェナ・マコーヴァは、15歳。
モリが幼い頃に家を出たきりだった父親のダニエルに引き取られ、すぐ父の姉たちによって全寮制の女子校に送り込まれます。
ウェールズの峡谷にある美しい村で生まれ育ったモリ。
母方の祖父母と叔母に可愛がられて育ちましたが、祖父の入院で、顔も知らなかった父の元へ来るしかなくなったのでした。

イングランドでは言葉のなまりも違い、学校でからかわれることになります。
1年前に交通事故で双子の妹モルを喪い、自分も片脚が不自由になっているモリ。
しかも、その事故には実の母親が絡んでいて‥
今も悪意に満ちた手紙を送ってくるという。
森に住むフェアリーを見ることが出来た双子ですが、イングランドではフェアリーも滅多に見当たらない。

読書家で、特にSFを大量に読んでいるモリ。
孤独な日々を支えているのが、魅力に溢れた本の世界でした。
伯母たちに逆らえない大人しい父のダニエルもSF好きだったため、だんだん友人のようになります。
学校の図書室の司書ミス・キャロルには親切にしてもらい、勧められたジョセフィン・テイも読んだり。
そして、町の図書館に集まるSFのサークルがあることを知り、参加できることに!

そう簡単にはめげない女の子が抱える不幸が痛ましいけれど、日記の形でびしばし子供の本音が語られるのが面白い。
一体、どんな展開に‥?!
ファン投票で選ばれるヒューゴー賞を受賞したというのは、わかります♪

2012年9月15日 (土)

「ドラゴンがいっぱい!」

ジョー・ウォルトン「ドラゴンがいっぱい!―アゴールニン家の遺産相続奮闘記」ハヤカワ文庫FT

ドラゴンが、人間よりも北の土地で、市民生活を営んでいるという設定。
いきいきしていて、めちゃくちゃ面白いです。

一代で財を築いたアゴールニン家の当主であるドラゴンが、地下の洞窟で死を待っていました。
邸は、娘婿のデヴラク士爵が継ぐことになります。
遺言で、既に家を構えている上の子達は形見だけをとり、年下の息子エイヴァンと二人の娘セレンドラとヘイナーに財産も遺体も分けるようにと。

遺言を聞いたのは、長男のペン。
ベナンディ珀爵領で、教区牧師となっています。
妹のセレンドラを引き取って、結婚相手を見つけようということになります。
もう一人の妹ヘイナーは、デヴラク士爵のもとへ。
セレンドラとヘイナーは仲が良い姉妹で、泣く泣く生まれ育った家を離れるときに、ある約束を交わします。
他ならぬ若きシャー・ベナンディ珀爵がセレンドラに興味を示しますが、いささか身分違い。セレンドラは、珀爵には婚約者がいると思いこんだまま。

ペンの妻フェリンは堅実な賢い女性で、義妹セレンドラを注意深く見守ります。
都市計画局に勤めるエイヴァンは、書記の女性と大人な関係。
この恋の行方は?

19世紀イギリスを思わせる暮らしをしていて、途中では時々、人間のそういう話かと思ってしまうほど。
財産相続や、結婚話でのもめ事、身分違いを乗り越えられるかどうかといった問題が話題の中心。
セレンドラ姉妹の恋愛など、まるでジェイン・オースティンを読んでいるようなんですよ。

だけど、ドラゴン…ていう。
綺麗な帽子をかぶっていて、身分や立場が察せられる。その凝りようを読んでいると、そもそも服は着ていないということも忘れそう。
恋に落ちると女性のドラゴンはピンク色になりかけ、花嫁は皆ピンク。
迫られて身体が接触しただけでもピンク色になり、未婚の娘は不名誉な立場になってしまう。
出産すると赤くなり、何度も出産した女性は紫がかった濃い紅に。
出産は命がけで、慎重に間を開けなければいけない。これは19世紀だと人間でもそうだったんじゃないかな。

ところが、死んだ竜の身体はみんなで分けて食べることになっていて、その分け前を巡って争いが起きるのです。
竜の身体を食べると、ぐっと力がつき、男性の体格は巨大になるので、その後の一生に関わることだから。
これは竜のさがなので、誰も何とも思ってないらしい。
時々そういった要素が差し挟まれるのが、秀逸なブラックユーモア。財産争いや親子の葛藤などは、ある意味、命をむさぼるような面もあるので、風刺的なニュアンスもあるかと。
領主が反抗した召使いを食べてしまい、ショックを受けた娘が奴隷身分の召使いを結婚後は解放しようと考えるいきさつも。

作者はトロロップのファンで、19世紀の作家や、19世紀風の物を書く作家の作品が好きなんだそう。
夫の一言を勘違いしたことから書き上げた作品だそうです。
2004年度の世界幻想文学大賞を受賞。
後に書いた歴史改変物の「ファージング」でも有名です。

2011年6月 2日 (木)

「バッキンガムの光芒」

ジョー・ウォルトン「バッキンガムの光芒」創元推理文庫

ファージング3部作の最終巻。
読後感、良かったです!

第二次大戦中にイギリスがドイツと講和したという設定の歴史改変物。
この作品では、1960年。
最初の事件で遺児となったエルヴィラが、18歳になっています。
当時は警部補だったピーター・カーマイケルが、引き取って育てました。

ザ・ウォッチと呼ばれる監視隊隊長となっているカーマイケル。
これはイギリス版のゲシュタポのようなもの。
首相に弱みを握られて、心ならずも公務を執行する一方、影の監視隊を組織して、アイルランドに人々を逃がしていました。

エルヴィラは、女子の名門校からの親友ベッツィと1年間スイスのお嬢様学校へ行き、これから社交界にデビューする所。
お嬢様達はそのまま結婚を目指すのですが、ベッツィのたっての頼みに付き合うだけのエルヴィラに、その気はありません。
もとは庶民の出で、後見人は特殊な地位にあるけれど、大金持ちというわけでもない微妙な立場。
秋にはオックスフォードへ行くことになっています。

素直に育っていて頭もいいけれど、政治的には学校でもこれといって習わず、カーマイケルの仕事のことも何も知らないままでした。
ところが、パレードを見物に行ったことから思わぬ騒動に巻き込まれて、逮捕されてしまい……!

危機に継ぐ危機の~大波乱の展開。
スリルだけでは片付かない恐怖感がありますが、希望と勇気の物語です。
作者はイギリス生まれですが、カナダ移住。
ブレア政権の時に、憤りにかられてシリーズを書き始めた由。
楽天的と自ら言っているとか。
楽天的だとこういう話が書けるんだ?…と、納得!

2011年4月25日 (月)

「暗殺のハムレット」

ジョー・ウォルトン「暗殺のハムレット」創元推理文庫

話題の「ファージング」3部作の2作目。
イギリスがナチス・ドイツと講和していたという設定の~歴史改変もの。
カーマイクル警部補は、続いて登場。
前作で権力者に秘密を握られ、出世は出来そうなものの、駒として使われてしまう立場になっています。

女優ヴァイオラ・ラークが、もう一人の語り手となります。
ヴァイオラは、名門ラーキン家の6人姉妹の一人。
とはいえ女優になるために家出して以来、実家には戻っていません。
ロンドンの舞台では、男女を逆転させた芝居が流行っていました。
ヴァイオラは、ハムレットを女性にしたバージョンの主役を勝ち取ります。
ところが、共演するはずだった名女優が、自宅で爆死。
最初は、テロリストに狙われたのかと思われますが…

疎遠だった妹から連絡があり、ヴァイオラは心ならずもヒトラー暗殺計画に巻き込まれていくのです。
信頼していた伯父たちに説得されても、ナチスがそれほど酷いことをしているとは、とても信じられなかったのですが。
爆弾の専門家だという男性に惹かれるヴァイオラは、脅されて行動を共にせざるを得なくなります。
ヒトラーがイギリスを訪問し、この「ハムレット」の舞台を見に来るという予定があるのでした。
ヒトラーの側近とヴァイオラの姉妹の一人が結婚しているという関係もあり、事態は複雑に。

わずか2週間でたたみかけるように起きていく出来事の緊迫感で、読ませます。
政治の動きはどう変わるかわかったものではないという恐怖感と、恐ろしいことが起きないために個人に出来ることはあるのかという思い。
三部作の中では、辛い方の話だけど。
スケールの大きさで、読み応えあります。
この姉妹には、イギリスに実在したモデルがいるそうですよ。

2011年3月21日 (月)

「英雄たちの朝」

物資の輸送が進んできたようで、少しだけ、ほっとしています。
一日も早く、被災した皆さまが暖かく過ごせるように、安心できる暮らしになりますように!

予約投稿をしておいたものの中から、少しずつご紹介していきます。
ほっと和めたり、読んで勇気が出てくるような作品をね。

ジョー・ウォルトン「ファージングⅠ 英雄たちの朝」創元推理文庫

話題の歴史改変ミステリ。
面白かった~!
名前ではわからないけど、作者は女性。ウェールズ出身でカナダ在住とのこと。
2003年に世界幻想文学大賞を受賞しています。

イギリスがはやばやとナチス・ドイツと講和条約を結んだと変えられていると聞いて、そういうイギリスってあんまり…
と、すぐには手が出ませんでした。
ところが、これが面白い。
1作目に関しては、クリスティなどを読んでいるミステリ読みならすぐになじめる雰囲気で、わかりやすく展開します。

イギリスでその講和を導いた~政治中枢を担う面々が、ファージング・セットと呼ばれているのです。
このときも、ファージングにあるエヴァズリー卿の屋敷で、パーティーが開かれます。
社交界の花形であるエヴァズリー卿夫人は、やり手で美しいが傲慢で、娘には冷たい。
この夫人と不仲の娘ルーシーの視点と、事件が起きてから呼ばれたカーマイケル警部補の視点で、交互に。

令嬢ルーシーは、亡き兄の戦友だったユダヤ人デイヴィッド・カーンと恋に落ち、反対を押し切って結婚しています。
親たちの政策に真っ向から反抗したのですね。
デイヴィッドは、イギリス生まれで裕福な銀行家の息子。
イギリスは大陸とは違う民主主義の国と信じ、いつかは受け入れて貰えると考えている善良な男なのですが。
翌朝、下院議員がベッドで死んでいるのを発見されます。
ユダヤの星が突き刺されていたため、ユダヤ人のデイヴィッドに疑いが…?

1941年にドイツと講和したので、ドイツは負けずに1949年になってもまだロシアとの戦争がだらだら続いている、という状況。
ユダヤ人に対する苛酷な処遇は、ドイツが敗れて一気に公表されたほどには知れ渡っていないでしょうが、徐々に知られてきているといったところ。
三部作なので、結末はこの独特な歴史改変に関わっています。
続きはまた、大きく展開するらしい。
けど、知り過ぎちゃってもつまらない?ので、後書きは先に読まないように!

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