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2012年4月12日 (木)

「狐笛のかなた」

上橋菜穂子「狐笛のかなた」新潮文庫

上橋さんの、シリーズではない、和風ファンタジーです。

森のはずれに、婆と二人で暮らす少女・小夜。
祖母はよその土地から来て、お産の手伝いが上手いため信頼されてはいましたが、村の中には住めなかったのです。
そのほうが、小夜にとっても良かったのでした。
聞き耳の才があり、人が考えていることが聞こえてしまうため、人が多い所は苦手だったからです。
ある日、小夜は追われている狐を助けて、ふところに抱えたまま犬に追われ、森の奥に入り込んで少年に出会います。
その狐は、実は霊狐だったのですが…

夜名ノ森(よなのもり)の奥の森陰屋敷に住む人は呪われている、という噂がありました。
小春丸は閉じこめられていた少年で、実は塀の破れ目からたまに抜け出していたのです。
再会した二人は短い楽しい時を過ごしますが。

成長した小夜がある日、賊に襲われたときに、見知らぬ男の子に助けられます。
それはかって助けた霊狐の野火でした。
呪人に使い魔にされて、人の姿で、敵の館に忍び込んでいたのです。

祖母を失った小夜の元に、思いがけない客が訪れ、迎えの馬を差し向けられます。
大郎(だいろう)とその妹・鈴、鈴の子・一太。
母の花乃や祖母をよく知るという一家に親切にされて、梅が枝屋敷で夢のような時を過ごしますが…
大郎は小春丸を匿っている管理人のような存在でもありました。
小夜の才を見抜きつつ、深刻な事態に巻き込みたくはないと、里に帰す大郎。

領主の有路ノ春望(ゆうじのはるもち)は、隣国の湯来(ゆき)の一族と敵対していました。
小春丸は実はその息子で、敵の呪者の目をくらますために、匿われていたのです。
だんだん事情を知った小夜は、小春丸を助けたいと願います。
だが閉じこめられた年月で、小春丸の心は悲しく歪んでいた…
呪者に逆らってまで、小夜を守りたいと願う野火は?

呪者どうしの戦いはある意味、わかりやすい。
逃げ場がなさそうな苦しみと、巻き込まれた者達の葛藤、立ち向かう勇気。
ファンタジックな世界で、どこかしっとりと切なく夢のように。

2003年11月、初版。

2010年10月 1日 (金)

「隣のアボリジニ」

上橋菜穂子「隣のアボリジニ」筑摩書房

守り人シリーズの作者・上橋菜穂子が、もともと文化人類学者でもあるのは知られているところ。
毎年オーストリアに出かけているそうですが、これは1990年に最初に行ったときの体験記。

アボリジニの話を聞きたいと思っても、いきなりインタビューに行って話して貰える物ではないでしょう。
ボランティアの小学校教師として滞在し、しだいに信頼を得ていくのですが…
最初に驚いたのは、混血が進み、街中で暮らしているために、見た目は区別がつきにくいことだったそう。
子供達は屈託なく一緒に遊び、表面上は差別や対立があるほどに思えない。

ただアボリジニの住居はまとまっているようだし、定職に就いている人が少ない現実もありました。
最初に親しくなった教師補助員のローラは、もうあまり伝統を知らない世代。
その伯母などの話は、激動の生涯ですが、伝統的な生活への興味は満たされます。
見上げれば星の見えるブッシュの中で、生まれたんですね。

一口にアボリジニというが、これは英語の「原住民」から来ていて、実際には400もの言葉の通じない集団があったとか。この地域の住民は自分達のことをヤマジーと言っているそう。
入植した白人のとったやり方のひどさも、何ともいえないものですが。
30万以上いたと推定されるアボリジニは白人入植後3万人程度に激減。いずれ消滅する野蛮人とさえ思われていたが、絶滅はしなかった。主に白人男性のレイプによって‥

もとは狩猟採集民族なのは、ネイティブ・アメリカン(いぜんでいうインディアン)と同じですね。
勝手に移住して森の木を伐り、囲いを作ってしまう白人達。
それに対して、すべてに精霊が宿り、土地は神にゆだねられて人が守るべき物と考え、自分たちの聖地から離れることも出来ないアボリジニ。
多くは奴隷同然の牧童となって、給金なしで働いていたそうです。
1901年にオーストラリア政府が対策に乗り出すと、教育的配慮という名目で子供が収容所に入れられ、親子が引き裂かれてしまうケースも。
1967年から72年にかけての法改正で人権を認められるようになると、今度は、給料を払えない牧場主に追い出されてしまうことに。

アボリジニといっても元々いろいろな民族の違いも想像以上にあり、さらに個人の性格もあるのはもちろんです。
部族の掟はかなり厳しい。ちょっと韓国を連想…ほとんどは違うんだけど、家族を大事にし、親戚は結婚できないことなどで。
葬儀と婚姻のしきたりは非常に大切にされ、これを省くことは出来ないそうです。
家族愛が強く、根は陽気な人が多いみたいなんだけど。
呪術など、想像外のことを伝えている部族もあるらしい。
町に住んで、白人やハーフと結婚し、キリスト教徒になっている方が既に多いんですね。

政策の変遷に翻弄されて、福祉で食べている方が多いとは。
貧しい飲んだくれのようなイメージがあるらしいが、もともと差別があって就職が難しいので、悪循環に。
「腰布姿で槍を持った野蛮人でない、私たちのようなアボリジニもいることを伝えて」と頼まれたそう。
2000年発行。
力のこもった内容です。

2009年12月22日 (火)

「獣の奏者」

上橋菜穂子「獣の奏者」講談社文庫

教育テレビでアニメ放映中のファンタジーの原作です。その1と2を読んでみました。
子供から老人まで幅広くファンがいるのも、うなずける内容。
作者は守り人シリーズでも有名、文化人類学者でもあります。

少女エリンは、母と二人、大公領の村に住んでいました。
亡き父は、闘蛇という獰猛な生き物を管理する闘蛇衆だったのです。
緑の目の母は「霧の民(アーリョ)」と呼ばれる血族を捨てて嫁いできた異民族の出。
才能を買われて獣ノ医術師になっていましたが、ある時、闘蛇の死の責任を問われて処刑されることになってしまいます。
崖から投げ落とされた母を助けようとしたエリンですが…

川を流され、命を救ってくれたジョウンという蜂飼いの初老の男性に教育されることになります。
ジョウンのかっての学友エサルが、王獣保護場の学舎で教導師長になっていました。
エリンは学舎で学ぶことになり、王獣の子に出会います。

傷ついて食べ物も受け付けない王獣の子、リラン。
エリンは野生の王獣の親子を見たことがあったため、いたいたしい様子を見かねて助けようとします。
ところが、王獣をなつかせるのは実は禁忌に触れることでした。
禁忌の理由も今は知られていないのですが…
リランをなつかせ、言葉もかなり通じ合うようになり、傷ついた野生の雄の王獣エクの面倒も見ることになります。

リランの出産を吉兆と喜ばれて、真王である女性が暗殺を恐れて宮殿を出たこともなかったのに、王を守る王獣を見にはるばる出かけてくるのですが…
リョザ神王国の真王(ヨジェ)の伝統とは。
真王領を守るはずの大公領の権力とのせめぎ合いに巻き込まれたエリンは?
勇敢で一途な捨て身の少女。
なんとも難しい立場ですが〜ダイナミックな描写でぐいぐい引き込まれます。
2006年11月、単行本発行。

2009年1月25日 (日)

「虚空の旅人」

上橋菜穂子「虚空の旅人」新潮文庫

守り人シリーズ4作目ですが、守り人という題になっていない~外伝的位置。
子どもにも読める文章になっていますが、リアルで立体的な構成で、大人の鑑賞に堪えるファンタジーです。

新ヨゴ皇国の皇太子チャグムは、サンガル王国の王位継承の祝典に招かれて、星読博士の若いシュガと共に訪れます。
島の多い国サンガルは、王家の娘達が島守りに嫁ぐことで結束を固めていました。
かっての小領主が、今も島守りとして自分の領土を守っているのです。
ところが、大国の回し者が島守りを誘惑…

島守りの元で、漁師と共に育てられたたくましい次男タルサン王子が、何者かに操られ、跡継ぎの兄に向かって銛を投げるという暴挙に。
宮廷は大混乱に…チャグムは、陰謀の渦中へ飛び込んだ形となってしまいます。

ナユーグル・ライタの目という~哀しい運命を背負った幼女も。
皇族は神聖とされる国で育ったチャグムは、深窓の大人しいお坊ちゃんに見えるのですが、そこはバルサと放浪の旅をした経験のある少年。
いざというときに活躍するかっこよさ!
勝ち気なサルーナ王女や「海をただよう民ラッシャロー」の一途な少女スリナァも活躍。
東南アジアの風物がお好きな方にもおすすめです。

2009年1月19日 (月)

「夢の守り人」

上橋菜穂子「夢の守り人」新潮文庫

守り人シリーズ3作目。
1作目では、幼い皇子チャグムを守って戦ったことのある女用心棒バルサ。
宮廷に戻ったチャグムのことはもう別世界の人と思っていたバルサでしたが。それぞれの運命が交錯、つかの間の再会を果たすのが泣かせます。

ある日、バルサは、奴隷商人に追われていた青年を助けます。
若く見える彼~じつは妖精に魅入られた歌人でした。
一方、村では、バルサの親友タンダの姪カヤが眠ったまま目を覚まさず、魂が抜けている様子。
タンダは師トロガヤに相談しますが…老婆トロガヤには思いがけない過去があったのです。

一方、皇太子として宮廷に暮らすチャグムは、皇帝になりたいと思えず沈んだ気分でいました。
父である皇帝は家族らしい感情のない人で、かって国を守るためとはいえチャグムの命を取ろうとしたこともあるのですから。
そこへ、息子を失った一の妃が眠りから目を覚まさないという事態が…

カヤを助けようとトロガヤの言いつけを破って一人で魂を呼ぼうとしたタンダは、花守りに取り込まれてしまいます。
バルサやチャグム、トロガイら、皆が力を合わせて事態を解決しようと動くのが心地よく、ダイナミックに展開します。
子どもでも読める文章ですが、内容的には~貧しい農家の嫁だったトロガヤの人生や皇帝の立場など、大人の視点も含まれていて重層的になっています。
夢見て眠る世界もたしかな存在感有り、さすがです。

2008年9月27日 (土)

「闇の守人」

上橋菜穂子「闇の守人」新潮文庫

「精霊の守人」に続くシリーズ2作目。
いろいろな版がありますが、これは2007年発行の文庫。最初の発表は99年かな。
女用心棒バルサが25年ぶりに故郷カンバル王国へ帰る話。
主人公が大人の女性なので、わりと大人向きですから~これ1冊だけでもオススメです。

シリーズ1作目では、女用心棒のバルサは、幼い王子の身を守るために仕事をしていました。
私はこれをだいぶ前にハードカバーで買って読んだきりになっておりました。

2作目では、養父ジグロを看取ったバルサが、故郷を訪れる話になるわけです。
養父ジグロは親友だったバルサの父に頼まれ、幼いバルサの命を守るために、すべてを捨てて出奔してまで育ててくれた人。
追っ手を討ち果たしながら生き延びる過酷な人生でした。
(抜け忍みたいなものですね…って違)
追っ手をかけた王は既に亡くなっていますが、はたして安全かどうかも定かではないまま…

ジグロの弟ヨグロは、家に代々伝わる槍舞いを継承し、今では王の右腕たる「王の槍」として国の実権を握っていました。
ジグロは想像以上の汚名を着せられたままだったことを、バルサは知ります。
父の妹ユーカに再会、さらに、陰謀がうごめく現場へと導かれるバルサ。
おりしも、カンバル王が山の王から青金石ルイシャを得る儀式が35年ぶりに行われます。
アジア的な生活の描写が面白く、意外な展開に本格的なファンタジーの醍醐味があります。
闇の守人ヒョウルとは。すべての真相は…

親族の元気な男の子カッサとおてんばな妹ジナも活躍。
牧童やオコジョを狩る小さなティティ・ランなどもいい味わい。
さすがに有名なシリーズだけあって、しっかり構成された、読み応えのある作品ですね。

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