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おすすめ本

2018年2月17日 (土)

「よこまち余話」

木内昇「よこまち余話」中央公論社

一昔前の日本のどこか、長屋でひっそりと暮らす人たち。
市井の人情話のような始まりですが、美しい幻想譚へと広がりを見せていきます。
温かく、切ないお話でした。

天神様の裏手にある狭い路地。
そこに面した古い長屋に住むお針子の齣江は、光の入る窓辺で、いつも仕事をしています。
30半ばにはなっているかという年頃の落ち着いた女性。
かいに住む老いたトメさんは、何かと食べ物を分けてもらいに上がり込む。
魚屋の次男坊の浩三も、よく立ち寄っては昼寝をしたりしていました。

糸屋の若旦那は人造絹糸を売る話をしにきたり。
編笠をかぶった謎の人物が現れたり。
季節を感じながら丁寧に生きる庶民の暮らしぶりに、ほっとするような心地よさがあります。
齣江のしっとりした雰囲気と、浩三の無邪気な視線も相まって、一緒にずっといたいような気分に誘われますね。
「人にうまく伝わらないようなことばかり考えてる」
「そしたら、そこのところが、浩ちゃんなのね」
こんなことを言い合えるなんて。

まだ狐狸妖怪がいてもおかしくなかった時代の摩訶不可思議な要素がしだいに膨らんできて、トメさんの正体?が現れるようなシーンも。
明かされる齣江の一途な想いが、こちらの心にもずっと残ったまま。

作品の魅力を伝える言葉が見つからなくて、もどかしい思いをしていました。

この優しい手触り、織り上げられた世界の柔らかでいて確かな空気感はぜひ、読んでみて、味わってください。

2011年10月13日 (木)

「漂砂のうたう」

木内昇「漂砂のうたう」

直木賞受賞作ですね。
明治10年頃の根津遊郭が舞台。
侍を捨て、今は美仙楼という見世の妓夫台(ぎゆうだい)に立つ立番の仕事に就いている定九郎が主人公。
年は26ですが、この見世にはまだ半年ほど。
遣り手のおばさんには気に入られて取り入りながら、適当に仕事を流しています。
店先に男が立つ台は二つあり、客に声を掛けて見世に上がるように誘う役目。
隣の格上の台に立つのは妓夫太郎という役で、龍造という男がつとめています。

女達がひしめく街。
根津遊郭は小見世も合わせると百軒近い妓楼と、二十数軒の引手茶屋からなっていたんだそうです。
美仙楼は中程度の見世ですが、小野菊という花魁は、泥の中に咲く蓮の花のように、どこか凛としていました。
呉服屋の主人という良い馴染み客もいて、身請け話も出たのに、花魁は断ったという。その理由は真夫だという噂だけれど、それらしい男の存在は見かけない。

定九郎はもとは御家人の家柄。とはいえ、部屋住みの次男でした。
父が旧幕軍にも彰義隊にも加わらないと聞いて、悲憤した兄。
定九郎は出奔したまま、女の所を点々として家も持たず、世をすねた気分のままでしたが…
車引きの新入りが下手で仲間に罵られているのを見ると、それは何と兄…
連絡一つしなかったのをなじられても、何も言えない。

賭場を開いている山公という男は、実は長州の出。
見世のために上がりを受け取りに行く定九郎は、ある日突然、山公が消えたと聞いて驚きます。
薩摩の西郷の元へ行ったという噂でした…

何かとまとわりついてくるポン太という40男は、噺家の弟子。
少々薄気味悪いものを感じつつ、小野菊花魁に使いを頼まれて出向くことになります。
ポン太の師匠がやっている落語の牡丹灯籠を見る定九郎。
これがなかなか~いい味出してます。

遊郭の生活ぶりが、丁寧に描かれていきます。
まだ揺れ動く時代の中で、それぞれに何か屈託やこだわりを抱えた人々。
どろどろした環境にあって、潔さもあり、ささやかな矜恃もあり。
展開が見えそうで~すぐには見えないところがみそ?
少しだけ、いい空気も入ってくるような‥

2011年5月10日 (火)

「新選組 幕末の青嵐」

木内昇「新選組 幕末の青嵐」集英社文庫

「漂砂のうたう」で直木賞を受賞した作家さんの作品。
3月末に「茗荷谷の猫」をご紹介しています。

新選組への視線と共感が熱い。
江戸での出会いから、京都へ上るいきさつ、新選組としての活動。
つぎつぎに視点を変えて、時代の推移を追っていきます。

江戸では跡を継ぐ立場にない若者達が行き場を求めてあえぎ、どう転ぶかわからない時代の流れに乗ろうとしていました。
近藤勇は愚直で人がよく真面目で、養父を素直に尊敬していたのです。
頭がいいとは言えないけれど、幕府に一途に忠義を尽くす。武士になりたいと公言し、無理と笑われても言い続けていました。

土方歳三は鋭い目をして剣の才もあるのですが、ひねくれ者で何をやっても落ち着かない、居場所のない人間でした。
京都まで行って、水を得た魚のように、見事な采配をふるうようになります。
怖がられる存在として隊をまとめるために、周りとはうち解けない。

沖田は無邪気で何も考えていないようでいて、時には人を見抜くような鋭い視線を向けてくる。
三人は最初から無二の親友といったつきあいだったわけでもないという書き方ですが、どう事情が変わっても信頼を貫き、他から見れば際だった絆がありました。

まったく個性の違う隊士たちが、お互いに向ける視線も面白い。
鬱屈を抱えた破滅的な芹沢鴨。
平凡だと自分では思っているが、冷静で豪胆な永倉。
知的で穏和な人柄だが、どこか弱さがある山南。
兄のように試衛館道場の皆を見守る~穏やかな井上源三郎。
新選組乗っ取りを狙っていた~高慢で端正な伊東甲子太郎。
真面目で誇り高い若者・藤堂平助。
剣が第一で、寡黙で孤独がちな斎藤。

必死な人間もいれば、いい加減に立ち回ろうとする者も。
苛立ち、勇気、疑惑、嫉妬、決断、悲壮、信頼、慚愧、感嘆。
息詰まるような空気を表現して、臨場感があります。
精いっぱい生き抜いたさわやかさも。

北へ向かった土方の一人でも軍を動かせる有能ぶりと、鬼の副長だった肩の荷を下ろしたかのような優しさ。
そんな土方に信頼を伝える斎藤。
小姓の市村に、兄へ遺品を届けるようにと命じて、戦場から離れさせる土方。
思い出しても泣けてくるよう。
2003年に書かれた作品です。

2011年3月29日 (火)

「茗荷谷の猫」

木内昇「茗荷谷の猫」平凡社

2011年1月、第144回直木賞を受賞したばかりの作者。
2008年の作品。
幕末の江戸から、昭和半ばの東京までの時代、下町の雰囲気ある町で暮らす人々。
少しずつリンクしていく短編連作です。
巣鴨染井、品川、茗荷谷町、市谷仲之町、本郷菊坂、浅草、池之端と舞台を変えて。

「染井の桜」は、ソメイヨシノを作り出した職人の話。
徳造は元は侍で役人勤めでしたが、植木が好きで身分を捨てました。
妻は何も言わなかったのですが、実はよほど気に染まなかったらしく、人が変わってしまう。
潔く才能も根気もある男だったのですが‥

「黒焼道話」
職を転々としてきた春造。
黒焼きというものがあると知り、興味を抱き、黒焼き屋で働き出します。
独自に開発しようとこだわるあまり店を出て、品川の寒村の掘っ立て小屋で、一人で焼き続けることに‥

「茗荷谷の猫」
夫と二人暮らしの文枝。
絵に才能を発揮して、次第に売れるようになります。画商の緒方が引き取りに来ては少しずつ売ってくれるのです。
夫は変わらぬようでしたが、実は、そっくりな人物を思いがけない所で見かけたことがあるのです。何か秘密があるのかも知れない。
物置の下に猫が住み着き、その様子も気になりますが…

「隠れる」
根っからものぐさな耕吉は、女と別れるときには黙って引っ越すことにしていました。だがそれも度重なると、住む所に困る羽目に。
周囲からはのぞけない一軒家を見つけて借りることにします。かって女性画家が住んでいた所だという。
ぐうたら暮らそうとするのですが、なぜか隣人に何かとお節介されます。
思惑がどんどん狂っていく様子がおかしい。

「スペインスタイルの家」
東京オリンピックを目指して~工事が進んでいる時期。
尾道俊男は中学もでないうちに戦災で孤児となり、世間に放り出されたのです。
今は、工事に携わるために、渋谷に越してきました。
気に入っている家があって、通勤途中に回り道をして眺めていました。もしかしたら、自分もこんな家に住んでいたかもと。

登場人物はどこかで関わりがあり、その後が見えたりする趣向。
それぞれの人物が抱く~ちょっとしたこだわりが面白い。
長い年月の移り変わりをじわじわと感じさせて。
ホラー風味もあり、出しのきいた濃い味わい。

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