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おすすめ本

2017年6月10日 (土)

「琥珀のまたたき」

小川洋子「琥珀のまたたき」講談社

母親に連れられて、別荘地の古い館の中で暮らす三人の子供たち。
小川洋子さんならではの切なく美しい世界です。

父親が破産し、人里離れた所にある別荘だけを与えて去った。
末の妹を思わぬ病気で突然なくし、母親は呪いと思い込んでしまう。
子供たちを失うまいと懸命になるのです。
この母親も遠くまで働きに通って子供たちを養う頑張りを見せ、家の中で出来る様々なやり方を工夫して、子供たちを可愛がり育てるのでしたが‥

オパール、琥珀、瑪瑙という新しい名前のついた姉と弟たちは、家の中だけで、寄り添って生きていきます。
父が出版した図鑑を使った空想や、遊びの数々。
琥珀は図鑑の隅に絵を描き、 亡き妹が生きて動いているかのような姿を皆が見つめることに。
閉ざされた世界の出来事が濃密で、とても豊かにも見えてくるのです。
いつかは壊れるだろうと予感させて、哀しく儚いのですが。

後々、芸術家専門の老人ホームという、これもまた現実にしては不思議さのある場所で、伴奏専門のピアニストだった女性が、才能あるアンバー(琥珀)氏という人物に惹かれ、そっと見守っています。
子供の頃の世界と交互に描かれ、どちらも少し物悲しいけれど。
親の犠牲になったという一面を見れば、痛ましい人生。
狭いことが悪とは言えないのではないか‥
とはいえ。
こちらの印象も揺れ動きます。

実在感のある儚さ、精緻な描写。
フランス映画のような雰囲気で、映像としてあのシーン、このシーンがありありと目に浮かびます。
読んで何ヶ月もたっても。

2015年5月16日 (土)

「みんなの図書室」

小川洋子「みんなの図書室」PHP研究所

小川洋子の読書案内。
ラジオ番組が元だそうです。
さらりと心にしみる内容でした。

優しい語り口で丁寧にポイントを読み解いていきます。
こんな本があったとは。
一冊については短い文章なので、切り口が色々変えてあります。
すいすい読めますが、深い‥
どれもこれも読んでみたくなります。
次の世代にも残したい文学作品というラインナップで、ほとんど非常に有名な作品を取り上げているため、年の功で~読んだ作品のほうが多いけれど、細かく覚えていない作品もありますから。
児童文学やドキュメンタリー、「家庭の医学」まであるのが面白いですね。

毎週スタッフとどの本を取り上げるかわいわい話し合ってきたそうですが、取り上げたい本が尽きることはないということです。
選んだ本のリストを改めて見ても‥
「自分の生かされている世界の果てのなさ、その果てのなさを受け止めるだけの包容力が文学にはある」と前書きに。

「あしながおじさん」を子供の頃に読んだときには主人公が生き生きと楽しそうで羨ましかったが、実は普通では想像もつかない孤独な子供がけなげに努力していたと今はわかると。
「桜の園」は生まれ育った家を売り渡さなければならない話だけれど、かみ合わない会話や登場人物になんともいえない喜劇の味がある、と。

ケストナー最初の児童文学「エーミールと探偵たち」
母思いのエーミールがお金をすられ、知り合った子供たちとお金を取り戻そうとする痛快な冒険の楽しさ。
乱歩の「押し絵と旅する男」の精緻な描写と、何度読んでも深まる不思議な印象‥
「竹取物語」を再読して初めて知る意外なエンタメ性。
「若草物語」のささやかな日常の幸福は、なかなか実現しにくい至高の理想でもあった、と。

山田詠美の「放課後の音符」では予想外の恋が。
良い大人と悪い大人を区別できる目を養ってください、という作者のメッセージも。良い大人とは人生のいつくしみかたを知っている。悪い大人とは、ケチな大人だと。
「若きウェルテルの悩み」ではウェルテルは自殺してしまう。そんな弱さが自分にもあるかもしれないと考えさせられるが、ゲーテ自身は失恋の苦しみを作品を描くことで乗り越えた‥

書き抜きたくなることばかり。
そして自分も~好きな作品のここがね!と伝えたくなりますね。

2014年2月23日 (日)

「いつも彼らはどこかに」

小川洋子「いつも彼らはどこかに」新潮社

どこかに動物が絡んでくる短編を集めたもの。
小川洋子さんらしい、ひそやかで切ない、心あたたまるというか、心が鎮まるような世界です。

「帯同馬」
スーパーで試食販売の仕事を続けている女性。
モノレールで行ける範囲に限っていました。その理由とは。
フランスで開催される競馬の凱旋門賞に出る名馬の緊張を和らげるため、付き添いで行く帯同馬に、思いをはせる‥

「ビーバーの小枝」
20年も自作を翻訳してくれていた翻訳者が亡くなり、家を訪問する作家。
森の中にある家は快適で、その森にはビーバーが住んでいます。
翻訳家はビーバーが齧った小枝を机の上に乗せていました。

「ハモニカ兎」
町のシンボルであるハモニカ兎。
その看板に、「オリンピックまであと何日」という日めくりが掛けられ、それをめくる仕事を担当する男。
ところが‥?

「目隠しされた小鷺」
修理屋の老人はなぜか「アルルの女」をテーマ曲に流していました。
小さな美術館の受付をしている女性は、老人がたびたび来館するため、しだいに顔なじみになります。
修理屋もほとんど客がないようでしたが、ある日‥

「愛犬ベネディクト」
学校に行かなくなってしまった妹は、ドールハウス作りに熱中するようになりました。
妹の入院中、愛犬ベネディクトの世話を頼まれる兄と祖父。
ベネディクトとは‥

「チーター準備中」
hを手放してから何年たつか、考えないことにしている女性。
動物園の売店で働いているたある日、チーター(Cheetah)のスペルにhが入っていることに気づきます。

「断食蝸牛」
断食施療院に入院している女性。
風車を見物に行くのを楽しみにしていましたが‥思わぬことに?

「竜の子幼稚園」
調理補助の仕事を定年で辞めた後、身代わり旅人の仕事に就いた女性。
身代わりガラスに依頼主の決めた小さなものを入れて首にぶら下げ、代わりに各地へ出向くのです。
代わりというよりも、一緒に行く気配を感じ取っていました‥

センスのいいタイトルで、中身を期待させますね。
淡々と働いている人々のささやかなこだわり、胸の奥にある悲しみ、目に映る光景の中のきらめき、意外なことが呼び起こす一瞬の思い。
丁寧な文章に吸い込まれるように、どこかの世界に自分も入り込んでいる‥
切なさとともに、じんわりと染み入るように、静かな喜びがこみ上げてきます。

2013年1月28日 (月)

「ミーナの行進」

小川洋子「ミーナの行進」中公文庫

少女が芦屋の従妹一家と暮らした1年間の思い出。
心温まります。

朋子は小学校を卒業するとすぐに、母の姉の嫁ぎ先に預けられます。
女手一つで育ててくれている母が、東京で専門学校に行くためでした。
1972年、開通したばかりの山陽新幹線で、岡山から新神戸へ。
駅に迎えに来てくれた伯父は、栗色の巻き毛をした紳士的な男性。
フレッシーという健胃効果のある清涼飲料水を作っている会社の社長でした。

スペイン風の豪華なお屋敷に、驚く朋子。
中も、夢のように素敵なインテリアなのです。
伯父の母はドイツ人で、おっとりしたローザおばあさん。
家事一切を取り仕切る家政婦の米田さんはローザおばあさんと仲良しで、家で一番権威があるらしい。
庭仕事をする小林さんは、カバの世話が重要な仕事という元々飼育係だった人。
広い庭には、なんと本物のカバがいるのです。
ポチ子は、コビトカバで、背は子どもの腰までぐらいですが、誰でも庭にカバがいるとなればビックリでしょう。いぜんはミニ動物園だったというほど広い庭。
その動物園の生き残りでした。

長男の龍一さんは留学中で、家にいる子どもはミーナ(美奈子)だけ。
一つ年下のミーナは美少女だけど、6年生には見えないほど小柄でぜんそく持ち。
朋子はすぐに仲良くなります。
ミーナはマッチ箱を集めていて、マッチ箱に描いてある絵にちなんだちょっとしたお話を書きためていました。
このお話が小川洋子さんらしい…

ミーナに頼まれて、代わりに図書館へ通うことになった朋子。
司書の男性にほのかな好意を抱いて、自分はろくに本を読まないのに、ミーナの受け売りで感心されます。
初恋でした。

理想的な一家に見えたのですが、少しずつ抱えている問題も見えてきます。
伯父さんは、どこかへ出かけたまま戻らない日も多い。
伯母さんは一人で部屋に隠れてお酒を飲んだり煙草を喫んだり、文章を読んでは誤植を見つけるのを趣味にしていました。
長男の龍一さんが一時帰国したときは、父親の顔をまともに見ようともしません。

ミーナは学校まで20分ほどを歩くのも難しいということで、ポチ子に乗って行くことが認められます。
特製の鞍を乗せ、小林さんが付き添って行くのですが、なんともファンタジックな光景。

ミュンヘンオリンピックまで、男子バレーボールの応援に夢中になる二人。
ドイツ生まれのローザおばあさんは、日本とドイツを両方応援していました。
選手村での思いがけないテロ事件で、ローザおばあさんの過去を知ることに。

哀しい別れもあるけれど、意外なほどハッピーエンド。
もっと複雑な陰影があるかと予想していました。
病弱なミーナも、しっかり成長していくのですよ~。

昭和の雰囲気や具体的な出来事を伝えると同時に、少女時代の普遍的なものもきらきら含んでいます。
憧れや驚き、好奇心、ときめき、小さな嘘、涙、優しさ…
多くの方に読んで貰いたい物語です。
2006年4月発行。

2012年9月 7日 (金)

「人質の朗読会」

小川洋子「人質の朗読会」中央公論新社

このタイトル、この表紙、小川洋子だし、ぜったい面白そう~。
と思って読み始めました。
読み始めてすぐ、えっ人質って!思ったより深刻かも。そうか~…(何だと思ってたんだ?)

地球の裏側にある国の、山岳地帯で、ツアー客の乗ったバスが反政府ゲリラに襲撃されました。
遺跡観光の帰り、発音も難しいような村で。
添乗員を含む8人が人質となり、報道規制もあって、詳しいことはなかなかわからないまま。
100日が過ぎて、ある日強行突破となり、突然の惨事となります。

2年後。
人質達が自作の文章を朗読していて、それを盗聴していた録音があることがわかり、公開されます。

そして、8日連続の放送。
「第一夜」から始まる連作短編のような形式となり、途中は人質という事情を忘れて読んでいました。
内容はまあ事件とは別種で、やや普通というか~人質になっている危険な状況の話ではありません。
一人一人の思い出話ということで、日本での人生途上であった印象的な出来事を描いているのですが、どこか不思議さも含んで。
いつのまにか、人の死というものに思いをいたす流れになっていて、何となく腑に落ちるような。

所々に出てくる、ややマニアックな展開、凝り性な部分は、いかにもこの作者らしい。
一般の人が語るという設定なためか、飾り気なく率直な雰囲気なのも、魅力。
どことなく諦観のようなものも感じられるのも、背景のせいなのでしょう。

「杖」
子どもの頃に、家の向かいの鉄工場を眺めるのが好きだった女の子。
そこに勤める若者が公園で足に怪我をしていたため、必死で杖を用意します。
後に、自分が怪我をしたときに、若者が助けてくれる夢を見て…

「やまびこビスケット」
地味な女性が若い頃に製菓工場に勤めたときの話。
味は同じシンプルなビスケットですが、形に凝りまくっているのです。
上手くできていない物をベルトコンベヤーから選別するのが、最初の仕事でした。
アパートの大家の女性が変わり者で、けち。整理整頓にこだわり、よく説教されていましたが、だんだん仲良くなって…

「B談話室」
たまたま通りかかった公民館の談話室で。
受付のきれいな女性に手招きされ、参加してみると…
次々に変わった企画をのぞいてみることに。

「冬眠中のヤマネ」
男の子が通学途中に出会った奇妙な老人。
通称をイギリス山という頂上に公園がある丘のふもとで、手製のぬいぐるみを売っていたのです。
あるとき、何かの撮影に巻き込まれて、よくわからないまま、老人を背負って階段を駆け上ることに。

「コンソメスープ名人」
留守番をしている8歳の男の子の所へ、隣人が台所を借りに来る話。

「死んだおばあさん」
若い頃から何度か「死んだ祖母に似ている」と声をかけられる経験をする話。
これがなかなか傑作です。

「花束」
1年の契約社員が辞める日、ただ一人のお得意さんから花束を貰う。
お得意さんは葬儀社の人でした…
男が花束を抱えて帰るのは、やや持て余し、棄てようかと思いつつ、子どもの頃の経験を思い出す。
棄てないで良かったと思ういきさつに。
浅くない優しさがしんみり感じられる話でした。

最後に朗読者の仕事と年齢が記され、思い出の頃から、大人になって何年もどう生きたのか、うかがわせます。

2011年2月発行。
今読むと、3月の震災での突然さを思ってしまいますね。
著者は1962年、岡山市生まれ。
「妊娠カレンダー」で芥川賞、「博士の愛した数式」で第一回本屋大賞を受賞。

2011年4月17日 (日)

「原稿零枚日記」

小川洋子「原稿零枚日記」集英社

小説じゃなくてエッセイ?…なのかな‥
長編小説に行き詰まった日々の~身近な出来事や旅行記、ちょっとしこだわりや妄想。

仕事の取材で山中の宿に泊まり、散歩していたら、苔料理専門店という店に行き当たる著者。
旅館とは同系列なので問題ないと言われて、ご馳走になることに。
苔‥って…

子供時代に住んでいた思い出の家について取材されて、話をすることになりました。
間取りを描くのですが、どうしても書き足りず、紙を足しても足してもまだ描けていないスペースが…?!

近所の小学校の運動会に紛れ込むのが趣味だという。
児童の家族のような顔をして‥
目立たないようにしていたのに、借り物競走に引っ張り込まれてしまいます。
他にも同類がいる、と見定めるのでした。
これに似たタイプですが、少し違うものに、パーティー荒らしという存在がいるのです。
自分は正規の招待客なのだけれど目立ちたくないので、係員かというような地味な格好で出かける著者。
パーティーに入り込んでバイキング料理をがつがつ取っている人を見かけ、まだまだだなと思いつつ、かばってあげたり。

‥事実もあるんだろうけど、とてもじゃないけど、事実の方が多いとは思えない。
ほとんど短編小説なので。長篇だけが書けなかった時期なのかな?
つやつやと深みのある文体。
まるごと小説家という印象でした。

母親が入院しているので、通っているという状態はちょっと身につまされます。
だんだん話せなくなる母は、少しずつ声をあの世に先送りにしたのではないかと。
わかる気がします。
2009年1月から2010年4月「すばる」に連載が初出。10年8月発行。

2010年12月 3日 (金)

「薬指の標本」

小川洋子「薬指の標本」新潮文庫

しっとりした雰囲気の不思議な短編集。2本収録。
やや暗めなトーンだが、静かで、毒はかすかに…透明感のある独特な世界。
短いので、すぐに読めます。
ひっそりと~一人こもっていたい気分の時には、最適?

サイダー工場の事故で、薬指の先が少し欠けてしまった主人公の女性。
サイダーが飲めなくなって退職後、歩いていてたまたま、標本を集めているという館の事務員募集に気づいて、応募します。
古い4階建てのアパートを買い取って、標本室を経営している標本技術士の男性・弟子丸にだんだん惹かれていくのでした。

ふしぎな標本が魅力的。
自分の家には持っていたくないが、保存はしておきたい物が持ち込まれるのです。
気持ちの区切りをつけるような物かも知れませんね。
品物相応の金額を受け取り、誠意を持って保存する。
依頼者は、いつでも自分の標本と対面することが出来るというシステム。
もっとも、対面を希望する人はほとんどいないのでした。

「わたし」の仕事は一人で事務室に勤務し、電話を掛けてきた人に標本室の趣旨を説明して、持ち込まれたら書類を作るだけの仕事でした。
持ち込まれる品物の種類は数限りないので、退屈するということがありません。
楽譜だけでなく、音を保存して欲しいという依頼など。
火傷で頬に残っている傷跡を標本にしたいと言ってきた少女がいつ帰ったのか、姿を見ないことが気になってきます。
やがて、自分の薬指を標本にして貰おうと考え…

「六角形の小部屋」は、カタリコベヤの話。
一人でこもって言いたいことを言うという、防音らしいが狭い、それだけの部屋。
ふしぎな母ミドリと息子ユズルが、それを持ち歩いているという。
仕事というには儲かりそうもないが?
なぜか必要な人は吸い寄せられるように集まってくるのだと。
穏和で礼儀正しい親子との会話が日常的でもあるような、人間じゃないものとの交流でもあるような。
主人公は、結婚直前で相手を嫌いになってしまい、それを上手く説明できないまま、別れてしまっていました。
以来、背中が痛むのですが…
カタリコベヤで一人で喋ることで、癒されていくようでした。

著者は1962年、岡山生まれ。88年、海燕新人文学賞を受賞。
91年、「妊娠カレンダー」で芥川賞。
2004年、「博士の愛した数式」で本屋大賞を受賞。
この作品は94年発表。

2010年5月 3日 (月)

「猫を抱いて象と泳ぐ」

小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」

繊細な言葉でつづられたイメージ豊かな作品です。
デパートの屋上に、象インディラがいた時代。
貧しい家庭に生まれた男の子は、生まれたときには口が開かない状態だったために手術が必要でした。
大きくなりすぎて屋上から降りられなくなってしまった象のインディラ。その運命に思いを馳せる~多感な少年に育ちます。
廃車になったバスを改造して暮らす巨漢のマスターに出会ったことから、チェスの才能が目覚めるのです。
チェスの名人アリューヒンの再来、リトル・アリューヒンと呼ばれることに。

マスターのチェス盤の下に入り込み、マスターの飼い猫を抱いて、練習を積みます。
チェス盤を見ないことで感性が研ぎ澄まされるけれど、普通の試合には出られない彼。
ホテルの地下にあるチェス倶楽部で、アリューヒンを模した精巧な人形の中に入って、チェスをすることに。
家具職人の祖父と見習いの弟が、一生懸命仕上げをしてくれるのでした。

手品師の娘が、父を喪ってホテルに取り残されたため、彼の付き添い役となります。
少年は彼女をある理由からミイラと呼び、彼女も理由は知らずに優しくそれを受け入れます。言葉少ない付き合いで、密かな絆が生まれてゆくのでした。
ホテルのオーナーの老令嬢も、好敵手に。
そしてリトル・アリューヒンが、ある決心をしたとき…

からくり人形のように精緻な言葉遣い。
荒々しい世の中に立ち向かう難しさも感じさせる、もの悲しいトーンですが。
個性的な登場人物は、規格からはみ出してしまうようでも、どこか、凛としています。
きらりと光る描写や心の交流を紡ぎ出す美しい文章に、夢見るようにうっとりしました。

2009年10月 2日 (金)

「貴婦人Aの蘇生」

小川洋子「貴婦人Aの蘇生」朝日文庫

思いがけないなりゆきで、伯母と一緒に住むことになった主人公は、まだ大学生。
ユーリ伯母さんは、伯父が51歳で結婚した相手なのです。
伯父よりもずっと年上の69歳、最初に会ったときからおばあさんといっても良いような女性でした…
亡命したと思われるロシア系の女性、ユーリ伯母さん。
年老いた顔の中で、その青い目だけは美しく澄んでいるのです。

伯父はかっては職を転々とし、事業に成功してからは広い屋敷を湖の畔に建てて、剥製や毛皮、角などを集めている変わった人物。
結婚後は寄り添うように旅行して歩き、むつまじい様子だったのですが、10年がたったある日、伯父はホッキョクグマの剥製に頭を突っ込んで亡くなってしまいました。

主人公の恋人ニコはとても気持ちが優しいのですが、奇妙な儀式通りにしないと建物に入っていくことが出来ない強迫性神経障害という病気を持っています。
主人公は忍耐強く理解しようとして、それが自然に出来るから仲よくなったのですが~時には先走ったり、いらだったりもしてしまいます。
ニコは、ユーリ伯母と気が合うのでした。

そこら中に、Aのイニシャルを刺繍し続ける伯母。
高価な毛皮を刺繍で台無しにしてもかまわない勢いは、異様でした。
その理由とは…?
なんと、本名はアナスタシアだと言い始めます。
剥製を買い入れようとした仲買人・小原がそれを聞き、ロシア皇女かもしれないと「剥製マニア」にそのことを記事にするのですが…

しだいにいきいきとしていく異国生まれの老婦人。
奇妙で、淡々としているけれど切ない~不思議な味わいのある物語。
2005年12月、文庫化。

小川洋子さんは、「博士の愛した数式」でとても有名ですよね。
本当に、とても良かったんです!
他は「妊娠カレンダー」しか読んでいなくて、それはちょっと好みではなかったので、化けたなあという印象でしたっけ。
他にも色々、面白そうな作品を精力的に発表しているんですね。おいおい楽しみに読んでいこうと思っています。

2005年12月15日 (木)

「博士の愛した数式」

小川洋子「博士の愛した数式」新潮社

家政婦の「私」は、数学者だった老人の家に派遣される。
14年前の交通事故で脳に損傷を受け、その後の記憶力が80分しかもたないという状態のため、会う度に挨拶をして、すべて新しく始めなければならない。
数式を美しいと感じる博士の世界は、静かに澄み渡っている…

その人柄に次第に好感を持つようになっても覚えていては貰えず、時には会っている途中に、博士が何も知らない状態になってしまう哀しさ。
未婚で一人息子を育てている主人公が子供を連れて行くと、必ず博士はとても優しい面を見せ、ルートと名付けられた息子との交流も慈しみに溢れて胸を打ちます。

既に語り尽くされている気がして、すぐ感想を書きませんでしたが、文庫も出たところなのでお薦めしておきます。
こんなに説明したくない気もするんだけれど…なんか自分の文章がつまんなくって伝えきれてない気が。
でもまだ隠れている部分もありますよ~。
独特なので、読んでみる価値はあります!

映画化されるそうで、まあねえ…
悪くない配役ですが、知る前に読んでおいて正直助かった!と思いました。
知らない方が自由に想像を膨らませられますからね(^^;

これに先だって「妊娠カレンダー」も読みました。
こちらは芥川賞受賞作。
たしかに~久々に文学してるのを読んだ気がする練り上げられた作品です。
日常の中のかすかな歪みがきしんでいく息づかいを拾い上げて実体化したような。
文学には、時代の空気のそこはかとなく嫌なところを吸い取るような部分があって、さらに空気の悪くなった今こんな物を読むとリアルに感じられすぎなんですが。
妊娠してる人は読まない方が良いかも?

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