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2018年9月 8日 (土)

「戦場のコックたち」

深緑野分「戦場のコックたち」東京創元社

第二次世界大戦にコックとして従軍したアメリカの若者の話。
日本人作家が丁寧に描いています。

1944年、ティムの周りでも出征する人が増えてきた。
徴兵されるより志願するほうがカッコイイかな、とティムも志願することを決めます。おばあちゃんのレシピを見るのが好きだったティムは、炊事担当の特技班へ。
素直なティムには、キッドというあだ名が付きます。

班のリーダーは冷静な眼鏡くんのエド。普段はおとなしいが頭が切れるホームズ役です。
班の面々は学園モノっぽい乗りだけど、置かれた状況は‥

使用済みパラシュートが大量に集められたのはなぜか。
粉末卵がなくなってしまった理由は?
軍が駐留する地域の住民にも謎が‥
戦場で起きる謎というのが一筋縄ではいかず、バラエティに富んでいて、よく調べてよく考えてあると感心しました。

ごく普通の男の子が、命がけで戦うのもスリルがあってカッコイイかなというぐらいの気分で志願し、ノルマンディー降下作戦に参加。
ヨーロッパ戦線ねぇ‥ノルマンディーですか‥
もうすぐ終わる時期ではありますが。

普通の男の子が経験した戦争。
直面した状況が詳しく書かれているので、読むのはちょっと大変ですが、良心的な内容を素直に読めるように書いてあると思います。
なめらかな文章に「翻訳物でもこんな読みやすいのもあるのね」とふと思い、いやこれは日本人が書いたんだったわと気づきました、2度(笑)
エピローグも良かったです。

2018年9月 1日 (土)

「暗幕のゲルニカ」

原田マハ「暗幕のゲルニカ」新潮社

ピカソの名作「ゲルニカ」を題材にした作品。
作者もそうだった、MoMA(ニューヨーク現代美術館)のキュレーターである日本人女性がヒロイン。

1930年代、スペインのゲルニカが爆撃されました。
ピカソはスペイン生まれ。義憤を感じて、大作に取り組むのです。
当時ピカソの愛人だった写真家ドラ・マールは、制作現場の写真を撮り続けます。
ピカソにもドラにも存在感があり、このあたりのエピソードはとても面白かったです。

そして、2001年、9.11。
2003年、MoMAに勤める瑤子は、戦争やテロに負けないというメッセージを改めて発信するため、ゲルニカを展覧会に出品してもらいたいと願います。
ゲルニカはスペインの至宝として、長年貸し出しはされていないため、交渉は難航しますが。
美術館の動きは、さすがリアルです。
現実離れしているぐらい華やかな~有力なパトロンも、意外と実在しているのかと思ったり。

ヒロインの行動にやや謎があり、クライマックスに向かうあたりがどうもこなれていないので、感情移入できなくなってしまいました。
この展開、ちょっと肩に力が入っている‥?
構成や結末で、メッセージは伝わります。

2018年7月14日 (土)

「ツバキ文具店」

小川糸「ツバキ文具店」幻冬舎

鎌倉を舞台に、文具店を継いで代書屋となる若い女性。

書くことが難しい手紙を、よく話を聞いて代わりに書いて出すという。
あたたかい気持ちになれる優しい物語です。

雨宮鳩子は厳しい祖母に育てられ、しつけというより修行のような独特な教育に反発して、家を出ていました。
祖母が亡くなり、なりゆきで文具店と代書屋を継ぐことに。たいてい「ポッポちゃん」とかわいく呼ばれていますが、高校の頃は反抗期でガングロだったという激しいものも秘めています。
隣の洋館で暮らす女性は皆に「バーバラ婦人」と呼ばれていたり、近所に住む初老の堂々とした男性は「男爵」、ポッポちゃんになつく女の子は「QPちゃん」など、可愛らしいネーミングで柔らかな雰囲気が溢れ、癒やされます。

依頼される手紙の内容はじつに様々で、お悔やみの手紙や、離婚の報告をする手紙、結ばれなかった初恋の人に元気だということだけを伝えたい手紙、借金を断る手紙、なくなった夫からの手紙を待っている老婦人に送る天国からの手紙など。
事情を汲み取って、依頼人の心をほぐし、手紙の目的を達成する‥
そのためには、身を清め、便箋の紙質や筆記具の種類、字体などもよく考えて書くのです。
ポッポちゃん(この呼び方がおかしくない雰囲気の娘さんだと思われるのですが)、じつは凄腕!
この凝りようと専門知識も面白く、メールでなくプリンター印刷でもない手書きの手紙というのは良いものだなという素直な感想をいだきました。

美しい四季の移ろいと古風な暮らし、美味しい食べ物、身近な人との親しさが深まっていく楽しさ。
心に頑なな屈託を抱えた鳩子自身が少しずつ落ち着いてきたある日、祖母が文通していた異国に住む女性から、手紙が届けられ‥?

すべてが丁寧で優しく、人の暖かさに包まれるよう。
うまくいかないこともある、苦しみがないわけではないけれども、必ずその先になんらかの方向性は見える。
それが自然に現れる感じがとても素敵な物語でした。

NHKのドラマ化も、上手く行っていましたね。
続編の「キラキラ共和国」もよかったです☆

2018年4月28日 (土)

「みかづき」

森絵都「みかづき」集英社

学校教育が太陽なら、塾は月。子どもたちを優しく照らす‥
塾の始まりから親子三代にわたる物語。力作です。

昭和36年、小学校の用務員をしていた大島吾郎。
勉強がわからない子に教えてあげていて、教員免許を持っていない吾郎の教え方がわかりやすいと評判になっていました。
通ってくる生徒の一人の蕗子は、教える必要もなさそうな成績の良い女の子。
蕗子の母親の千明が吾郎のもとを訪れ、教える才能を見込んで、塾を立ち上げようと誘います。
千明は、半ば強引に、結婚まで持ち込み(笑)

教育の話、塾の話というと、真面目で説教臭いかもしれない気がしますが。
気が強く個性的な千明と、大らかで人望があるがいささか女にだらしがない吾郎というコンビで、いたって人間的に、躍動するように話は進みます。

当初は勉強についていけない子どもたちに補習していたのが、しだいに進学指導がメインに。
方針を巡っての対立から、夫婦仲にも影響が出ます。
子どもたちの性格の違い、それぞれの進路も時代を映して。

文部省は、長らく塾を白眼視していたのが、年月を経て学校を補完するものとして認めるようになります。
しかし、「ゆとり教育」の真相というのは、ちょっと衝撃的でした。
優秀な子がもっと上へ行けるよう、そうでない子は放っておくということだったとは‥?
そればかりではないような気もしますが、時代の風潮として一面の真実かと。

孫の世代の一郎がフリーターだったり、そんな子がまた教育の場を設けるようになったり。
戦後の激動期を経て数十年、こんな時代が来たと。
ある意味、教育には終わりがない‥
いい締めくくりでした。

2017年本屋大賞2位。

2018年4月 7日 (土)

「桜風堂ものがたり」

村山早紀「桜風堂ものがたり」PHP研究所

百貨店内の大きな書店で働いていた青年が、思わぬ事故で辞めることになり‥?
優しい気持ちにさせてくれる物語です。

風早町の古い百貨店本館にある銀河堂書店。
月原一整は、隠れた名作を見出す才能があると店長に認められていました。
才能ある店員が揃っている職場ですが、毎日の重労働に加えて、勧めたい本のポップを作ったり、本の並べ方を工夫したり。
決して楽な仕事ではありません。
地道な取材を感じさせる描写で、ネット販売が主流になっていく時代に、町の書店への応援歌となっていますね。

えてして軽い気持ちで行われる万引きも、実は書店に大きなダメージを与える問題。
思わぬ事件の顛末で書店の評判が落ち、一整が責任を取る形で辞めることになります。
これほど立派な人達が揃っている店なのに、なすすべもなく‥

傷心の一整は旅に出て、以前から交流のあった桜風堂の主人と出会います。
時の流れに取り残されたような山間の小さな町・桜野町で、たった一つの書店が閉店しそうになっていた‥
子猫やオウム、桜風堂の孫の少年らとの暮らし。
そこで出会った作品を巡って、銀河堂の仲間たちと再び‥?
過去にあったことで孤独がちだった一整が、居場所を見つけていく。

この作者ならではの清潔感のある文章の、柔らかな描写が心地よい。
モチーフはやや少女っぽく感じられるかもしれませんが、さすが読ませる力がありますね。
夢のある展開で、盛り上がります!
桜野町に行ってみたい。
この表紙の窓辺へ‥

2017年9月 2日 (土)

「王とサーカス」

米澤穂信「王とサーカス」東京創元社

太刀洗万智が主人公の長編。
前年の「満願」に続き、ミステリのいろいろなランキングで1位を獲得した作品です。

2001年。
太刀洗万智は新聞社を辞めて、初仕事。
海外旅行特集の取材のために、ネパールの首都カトマンズへ。
まずは事前に雰囲気をつかもうというゆるいスケジュールのはずで、宿で懐いてきた少年にガイドを頼んだのですが。
突然、王宮で国王たち王族が何人も殺害される事件が起き、あっという間に異様な空気になります。
太刀洗は、ジャーナリストとして取材しようとしましたが、暴動寸前の空気と報道規制に阻まれる。
そして、取材しようとした関係者に事件が‥!

『さよなら妖精』の出来事から10年がたち、海外のことも他人事ではないと感じている万智が遭遇した、思わぬ事件。
報道に携わる人間として、情報をどう集め、どう発信すべきなのか?
クールで真剣なヒロイン、太刀洗万智のこれからの生き方が問われると同時に、読んでいる人へも疑問を投げかけてきます。
実際に起きた事件を背景にしているため、重厚感も。
鋭い切り口と壮大なテーマが新鮮で、強い印象を残します☆

2017年6月24日 (土)

「コンビニ人間」

村田沙耶香「コンビニ人間」文藝春秋

2016年上期、第155回芥川賞受賞作。
コンビニに勤め続ける女性が主人公。

古倉恵子は36歳、独身。
子供の頃から変わっていて、周囲に驚愕されること度々。
できるだけ普通のふりをしているのだけど、家族には心配されてきました。
わかりやすい文章で、大げさなこともなく、読みやすいですね。
変わっているエピソードと、普通のふりをする方法が芥川賞的かも。

幸い、恵子はコンビニのバイトが性に合い、大学卒業後も就職せずにバイトを続けて、18年目になります。
マニュアルが決まっているとはいえ、プロとして有能なので~
読んでいて、いいじゃないの~何が悪いの?って気分に。
発達障害というタイプに相当するのでしょうが‥そう一口に言っても、それぞれ個性が違うわけで。

新入りの男性・白羽がやってきて、これがなんとも理屈っぽいうえに、店員としては困ったやつ。
あっさり切り捨てることなく、白羽の話を聞く恵子さん。
恋愛経験のない恵子は、男性と暮らしていたら周りを安心させられるかと、同居することを思いつく‥
おいおい?

ここまで変わってはいないにしても、恋愛経験の少ない女性が見合いしたり、ふとしたきっかけで付き合い始める時ってねえ、周りからのプレッシャーやその場の成り行きかもしれない。
自分だって、変わっている部分だけをより出して書いたら、けっこう通じるものがあるのだろうか?などと考えてみたり。いやタイプはぜんぜん違うけど。

同調圧力って、どこにでもあるものなのでしょうが、日本は特に強いほうかもしれません。
いろいろ考えさせられる、芯になる部分があり、どことなく仄かな明るさもあり。
多くの人が読むことになる賞にふさわしい作品だと思います☆

2016年11月 1日 (火)

「流」

東山彰良「流」講談社

平成27年(2015年)上半期、第153回直木賞受賞作。
台湾生まれで日本育ちの作者が描いた作品。
重いものを含んでいますが、濃厚で勢いよく、エンタメ性にも富んでいます。

1975年。
台北の高等中学に通う葉 秋生(イエ チョウシェン)は17歳。
台湾の総統・蒋介石が亡くなって一ヵ月後、祖父が殺されてしまう。
かって中国大陸で激しい国共内戦があり、敗れた国民党は台湾に渡って「外省人」と呼ばれていました。
(もともと台湾に住んでいた人々のことは、本省人だそう)
そのへんの成り行きをあまり知らないので、実感を伴う描写に圧倒されます。
秋生をかわいがってくれた祖父は、戦時には大陸で悪名高い存在だったらしい‥

秋生は成績優秀だったのだが、ひょんなことから迷走する青春を送ることに。
幼馴染の悪友・小戦や、年上の初恋の女・毛毛(マオマオ)との関わり。
もっと恐るべきろくでなし達も出入りし、こちらも熱気溢れる展開。
1970年代の台湾って、こんなに凄かったの?

日本へ、そして大陸へ。
怒涛のような勢いで、命のやり取りも含む危機が描かれます。
そして結局‥
共産党と国民党の戦いの本質とは?
たまたま親しかった人のいる方の、味方に付いただけとは。
年月を経て許されることと許されないこと‥
ある感慨に胸を打たれます。

2016年9月 6日 (火)

「火花」

又吉直樹「火花」文藝春秋

言わずと知れた芥川賞受賞の話題作。
売れない若手芸人が強烈な芸を持つ先輩に出会い‥

スパークスという漫才コンビを組む徳永は、熱海の花火大会で、聞く人もいない状況で漫才をさせられていました。
この夜に先輩芸人の神谷と出会い、それからは毎日のように会って漫才論を語り明かします。
素直に尊敬して影響を受けつつ、あまりに破滅型な神谷に、付き合いきれない面も出てくるのでした。
しだいに徳永はテレビに出る機会も増えて、伸びて行きますが‥
徳永の内気で周りから浮きやすい、斜に構えていると誤解されやすいところなど、本人の経験から?
本は読まない人、という設定だけど。

さすがに文章は丁寧でちゃんとしているし、まじめな雰囲気はテレビで見る姿とも違和感ないです。
長年本を読んできた人らしい文学への愛情や尊敬も感じられます。
芸人として培った感性や、おそらくモデルになった先輩だけでなく、変わった人物が身の回りに多かった経験も存分に生かされています。
漫才のねたや、コントっぽい会話が混じるあたりは読みやすい。

というわけで、基本は納得の合格点で、好感も持てます。
個人的に、お笑い論というか、そこまで極めようという気持ちに共感できなかったけど。
先輩の普通じゃないところ、このへんの濃さが、芥川賞の所以かな。
‥普通じゃない先輩なら知ってないこともない‥
若い頃、出会うものかも知れませんね☆

2016年5月 1日 (日)

「キャプテンサンダーボルト」

伊坂幸太郎 阿部和重「キャプテンサンダーボルト」文藝春秋

伊坂幸太郎と阿部和重の合作による長編小説。
出身地の仙台と山形が舞台になっています。

映画的なスケール感のあるエンタメ小説。
いつもの伊坂さんよりやや描写が重めかな?
ストーリー展開は後半とくにスピーディで、楽しんで書いている雰囲気も伝わって来ます。

幼馴染の友達がひょんなことから再会。
何かと問題を起こしがちな相葉時之と、真面目なサラリーマンで家族思いの井ノ原悠は気まずくなっていたが‥
どちらも金に困っている折も折、蔵王の御釜に隠された謎に巻き込まれることに。

ホテルの部屋の取り違えから起きた事件。
東京大空襲の夜にあったB29の謎。
二人が子供の頃に、人気のあるドラマだったが、映画は急に上映中止になった「鳴神戦隊サンダーボルト」‥
実際の試合経過と同じ、楽天イーグルスの田中マー君の試合振り。
一見無関係な要素が、だんだん絡み合っていくのが面白い。

二人は謎のロシア人の大男に命を狙われながら、危険な冒険に乗り出して行きます。
国家的なスケールの陰謀に立ち向かうのは、ごく普通の人たち。
かつての彼らのヒーローや、大人になった同級生が手助けしてくれたり、ちょっとした所での活躍が繋がっていくのは「ゴールデンスランバー」的な面白さ。
相葉が預かっている犬のポンセも、いい味出してます。

どうなることか?というスリルに満ちたストーリーですが、最後はなんとか円満に。
ほっとする読後感でした☆

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