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2019年1月20日 (日)

「三鬼」

宮部みゆき「三鬼 三島屋変調百物語四之続」日本経済新聞出版社

三島屋変調百物語の4冊目。
中編が4本入った充実した内容です。

神田の人気ある袋物屋「三島屋」では、変わり百物語も評判となっていました。
不思議な経験を語りたい人を一度に一人ずつ迎え、姪のおちかが一人で話を聞き、おちかが叔父に一通り話した後は、「話して話し捨て、聞いて聞き捨て」というお約束。

第一話 迷いの旅籠
名主と共に村から出てきた百姓の女の子が語ったのは、幽霊を見た話。
先祖を迎える行灯祭りが禁じられてしまったため、村外れの空き家を行灯に見立てて飾る行事が行われました。
ところがそこへ、亡くなった人が姿を見せてしかも留まり‥?

第二話 食客ひだる神
箱根の七湯巡りをした夫婦に、ひだる神が取り憑いた?
商売は繁盛するが‥
気のいい夫婦はついに?
微笑ましい成り行き。

第三話 三鬼
お武家のしかもとある藩の江戸家老という大人の男性の訪問。
若い頃に左遷されて北部の寒村へ赴任した。
閑職のようだが、逃散もあったり獣害の危険もある土地で、腕が立つ侍がいる必要があったのだ‥
貧しい郷の悲惨な現実を思わせます。

第四話 おくらさま
島田髷を結い、娘のような振り袖を着た老女が登場。
生家では「おくらさま」に毎日捧げ物をしていたと。
だがそのために、犠牲になり‥?
姿の消えた老女が何者だったか、探し始めるおちか達。

おちかの身の上にも変化が起きるかもしれない、という思わぬ出会いがあります。
素直な若い娘には辛すぎる過去を抱えたおちか。
作品も中編にしておくにはもったいないような重みがありますが、これぐらい世間の広さ深さを感じることでやっと、おちかも少しは気持ちを立て直せるのでしょうか。
幸せを祈ります。

2019年1月13日 (日)

「バッキンガム宮殿のVIP」

スーザン・イーリア・マクニール「バッキンガム宮殿のVIP」創元推理文庫

マギー・ホープのシリーズ第6作。
ロンドンに戻ったマギーが、連続殺人事件の捜査で活躍します。

アメリカ育ちの英国人、マギー・ホープ。
戦時下のロンドンでスパイの訓練を受け、数々の試練をこなしてきました。
特別作戦執行部(SOE)で働いていたところ、採用した女性が不審な死を遂げ、マギーはMI-5の依頼で捜査に加わることに。

スコットランドヤードの警部ダージンは、これまでマギーが付き合ってきたエリートの若者とは違う人種。
若いマギーを見ても最初は世間知らずの女の子ぐらいにしか思わず、他のお偉いさんときたらさらにサイテー(笑)
男性が戦地に駆り出されたために女性の社会進出が進む一方で、まだ格差はあからさまという。
優秀で生きのいいマギーは鼻をあかせるか?(笑)

戦況も暗い時期のうえ、女性の連続殺人はまるで切り裂きジャックを真似たよう。
異父妹がドイツにいるマギーには、そちらも心配。
妹はナチスの圧力をなんとか、かわしながら、生きているのですが‥

事件の中心へ切り込むマギー。
いつもVIPの傍にいる立場なのは、作者は歴史的な危機をありありと体験するかのように描きたいのでしょう。
超人的という設定ではありませんが、かなり優秀でないと大事件に関われませんよね。
不安要素だらけの苦境を生き抜くことになるだろう勇気の物語ですね。

2019年1月10日 (木)

「昨日のまこと、今日のうそ」

宇江佐真理「昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話」文春文庫

人気シリーズも終盤です。
惜しくて、大事に少しずつ読んできましたが‥

廻り髪結いの伊三次は、同心の不破親子の手伝いもしています。
江戸市中で起きるいくつかの事件の探索と交えながら、身近な人間模様を描いていきます。

不破の娘・茜は、松前藩の奥女中。剣の腕を見込まれての警護役ですが、若君に気に入られていました。
側室にと望まれて、最初はとんでもないと思った茜ですが‥
お世継ぎ争いに巻き込まれそうになります。

伊三次の弟子の九兵衛は、大きな魚屋の娘と縁組が決まっていたのですが、身分違いがどうしても気になっていました。祝言を前に、一旦はやめようと決めたのですが‥?
そっと見守る伊三次には、すべてお見通し(笑)

伊三次の息子の伊与太は、若い師匠のもとで絵の修行中。
才能のある新弟子が入ってきて悩んでいるときに、思わぬ批判を受けて落ち込みます。
葛飾北斎と娘のお栄がさりげなく慰めてくれるのは、伊与太のほうにも才能や人柄がいいところがあるのを認めてもらえたのかな、なんて。
ちょっと嬉しくなりますね。

不破龍之進ときいの間には(前作の終わりに)子供が生まれました。
妹の茜が突然里帰りするというので、大慌てで御一行を迎える準備をする不破一家。
さっさか一人で歩いてきた茜に、驚くやらほっとするやら。
悲しい思いをした茜も落ち着いてきた様子。詳しいことを知らぬままの家族も、何かを察していたのでした。

これまでの長い物語、一人一人の挫折や迷い、紆余曲折があってのこと。
ほのかに心が通い合う様子に、こちらも胸に染み入る思いがしました。

2019年1月 5日 (土)

「古書奇譚」

チャーリー・ラヴェット「古書奇譚」集英社文庫

古書商が手にとった本には、あのシェイクスピア本人の書き込みが‥?
妻をなくした気弱な男が、古書を巡る冒険に巻き込まれます。渋いタイトルの割に、のりは軽くて読みやすいですよ。

ピーター・バイアリーは古書商。
最愛の妻アマンダをなくして9ヶ月、二人で住むはずだった片田舎の家に引きこもりがち。
鑑定を頼まれて、近所の屋敷に出向きます。気難しい住人の所蔵していた本には‥

最近のことだけでなく~
学生時代のアマンダとの出会いから12年に渡る愛のなりゆきも、少しずつ描かれます。
大人しい文系男子の夢?
図書館に通ってくる美女に声をかけてもらい、スムーズに上手く行っちゃう、しかも相手はお金持ちって(笑)
不思議な縁には、ややファンタジックな要素もあります。
こういうのが好きかどうか?で評価は分かれるかも。

シェイクスピアの時代の出来事と、問題の本が手から手へと渡っていく年月もありありと書かれていて、この部分が面白い。
ピーターが手にとったのは、本当に本物なのか?
それにもう一つの謎、アマンダそっくりの顔をした美女の古い肖像画の謎も。
交互に描かれつつ話が絡み合うのは、だいたいは上手く行っているのですが、傑作になるにはもう一歩かなぁ‥おもに構成が。あと少し、という気がするんですが。
とはいえ、十分、楽しめました!☆

2018年11月 4日 (日)

「少女たちの明治維新」

ジェニス・P.ニムラ「少女たちの明治維新:ふたつの文化を生きた30年」

明治のごく初期に、少女の身で米国へ渡った留学生たち。
日本初の女子留学生の波乱の半生を細やかに描くノンフィクション。

明治4年、岩倉使節団とともにアメリカに渡ったのは、5人の少女たち。
苦難の旅に凝りてすぐ帰国した子もいたが‥
着物姿の少女たちは日本のプリンセスと(半ば誤解されて)歓迎され、裕福な家庭で娘同様に育てられたそうです。

山川捨松(後の大山捨松)は長身で優秀、大学を主席で卒業するほど。
ただし、帰国してみたら、母国にはその優秀さを活かす場がなかった。渡米した当時よりもある意味では保守化していて、女子の教育を推進する空気ではなかったのだそう。
後の陸軍卿・大山巌に請われて後妻となり、鹿鳴館の花と謳われることになります。
会津藩の家老の末子だったことを思うと、何とも激動の人生。

津田梅子は年下で大学を卒業せずに帰国したせいもあって、当初は仕事がなく、悔しい思いをします。
けれども皆で力を合わせて「女子英学塾」をひらいて、それが後には「津田塾大学」となるのですから、今では一番有名と言ってもいいぐらいですよね。
永井繁(後の瓜生繁子)は、順調に音楽の教員になり、安定した暮らしを得ます。

捨松が滞在した家の娘アリスが親友となり、日本に来て長く教育にたずさわることになったり。
知らなかった事情がいろいろあって、味わい深く読めました。
教育の大切さはもちろんですが、新しい道を切り開いていく勇気やパワーはどこから出てくるのでしょう。

今の日本は彼女たちから見たら、びっくりするほど進んでいるのか、それとも‥?(笑)
いや~かなりの部分は進んでいると思うのですが。
まだまだと思われてしまうところもあるかな、などと考えました。

2018年10月23日 (火)

「名もなき日々を」

宇江佐真理「名もなき日々を 髪結い伊三次捕物余話」文春文庫

「髪結い伊三次捕物余話」も終盤にさしかかっています。
お気に入りのシリーズ、ゆっくり読んでいます。

伊三次は義兄の髪結い床(床屋さんですね)も手伝いつつ、廻り髪結いの仕事も続けています。
伊三次と芸者のお文の息子・伊与太は、絵師に弟子入りしていましたが、師匠が急逝。
すぐには落ち着き先が決まらず、ひそかに恋する茜のことに思いを馳せます。

不破友之進の娘・茜は松前藩の奥女中となっていますが、剣の腕を生かすための警護役なので男装。表紙の若衆髷のきれいなお兄さん?が茜なのです。
藩では跡継ぎが病弱なため、お家騒動が持ち上がりかけていて、若君に好かれている茜は巻き込まれていきます。
そんなとき‥?
気丈な茜がふと見せた涙の理由が切ない。

伊与太は人気の若手絵師のところに手伝いに入ることとなり、葛飾北斎のところを尋ねるときに同行できたのも楽しい。
伊与太の妹は女髪結いになりたいと言い出すし、若い世代がいきいきしています。
大人世代もそれぞれに活躍どころを見せ、いくらかは不安もありつつ、長年の知り合いを見守るような気持ちになれて、心温まる読後感でした。

2018年10月21日 (日)

「ドーバーの白い崖の彼方に」

ジョアンナ・ボーン「ドーバーの白い崖の彼方に」二見書房

「紅はこべ」にときめいた方向け。

作者はヒストリカル・ロマンスのRITA賞受賞作家だそう。
手が込んでいますよ~!

19世紀初頭、ナポレオンが統治するパリ。
アニークは、ある嫌疑によりフランス警察に捕らえられていました。
母に仕込まれて少女時代からスパイとして特殊な活動をしてきたアニークは、まだ19歳。
ハンディもありながら、超人的なまでに鍛えられているのです。

牢獄の中で出会った英国人スパイのグレイと互いに惹かれ合いますが、英仏は戦争中。
スパイとして訓練された二人は、脱獄のために協力し手を取り合って逃げながらも、そう簡単に心を許しません。
ロマンス小説のお約束が、激動の時代を背景に、複雑に練り上げられていて、波乱の展開になっています。
楽しめました☆

2018年9月24日 (月)

「あきない世傅 金と銀(四)貫流篇」

高田郁「あきない世傅 金と銀(四)貫流篇(時代小説文庫)」角川春樹事務所

人気シリーズ4作目。
1作目も2作目も3作目もあっと驚く結末でした。
そして?

幸は、大阪天満の呉服商「五十鈴屋」に女衆として奉公していました。
店主の祖母である「お家(え)さん」と、番頭の治兵衛に認められ、四代目店当主の後添いに。ところが、放蕩者の四代目は、あっけなく‥

次男の惣次が五代目徳兵衛として跡を継ぐことになり、幸を嫁に迎えるのを条件とします。
幸を気に入っていたはずの五代目との間がきしむようになり、ある日突然‥

夫の出奔が理解できないまま、なんとかしのごうとする幸。
お家さんから、思いがけない願いを聞いて涙します。
幸の才覚を戦国武将とまで評価していた治兵衛は、三男の智蔵に期待をかけます。
貸本屋で戯作者の道を歩んでいた智蔵は?

ちょっと展開が急ですが、まあまあ収まるところへ収まった、という感もあり。
もう誰が見てもべっぴんさんの幸が、御寮さんとして力を発揮し始めます。
とはいえ、大阪には「女名前禁止」という決まりがあったんだそうで。一家の商売を女が表に出て仕切ることは出来なかったという。
四代目の最初の妻が実家で活躍しているとは、頼もしい。名はともかくとして、こういう実態はあったんでしょうか。

智蔵は商才があるというわけではないけれども、人当たりがよく柔軟。
智蔵の生き方や考え方が独特で、なるほど、若い頃のほのかな気持ちだけじゃなく、成長してこうなった男ならこのときの幸と合うのか!と面白かったです。

2018年9月 8日 (土)

「戦場のコックたち」

深緑野分「戦場のコックたち」東京創元社

第二次世界大戦にコックとして従軍したアメリカの若者の話。
日本人作家が丁寧に描いています。

1944年、ティムの周りでも出征する人が増えてきた。
徴兵されるより志願するほうがカッコイイかな、とティムも志願することを決めます。おばあちゃんのレシピを見るのが好きだったティムは、炊事担当の特技班へ。
素直なティムには、キッドというあだ名が付きます。

班のリーダーは冷静な眼鏡くんのエド。普段はおとなしいが頭が切れるホームズ役です。
班の面々は学園モノっぽい乗りだけど、置かれた状況は‥

使用済みパラシュートが大量に集められたのはなぜか。
粉末卵がなくなってしまった理由は?
軍が駐留する地域の住民にも謎が‥
戦場で起きる謎というのが一筋縄ではいかず、バラエティに富んでいて、よく調べてよく考えてあると感心しました。

ごく普通の男の子が、命がけで戦うのもスリルがあってカッコイイかなというぐらいの気分で志願し、ノルマンディー降下作戦に参加。
ヨーロッパ戦線ねぇ‥ノルマンディーですか‥
もうすぐ終わる時期ではありますが。

普通の男の子が経験した戦争。
直面した状況が詳しく書かれているので、読むのはちょっと大変ですが、良心的な内容を素直に読めるように書いてあると思います。
なめらかな文章に「翻訳物でもこんな読みやすいのもあるのね」とふと思い、いやこれは日本人が書いたんだったわと気づきました、2度(笑)
エピローグも良かったです。

2018年8月14日 (火)

「東福門院和子の涙 下」

宮尾登美子「東福門院和子の涙 下」講談社文庫

徳川二代将軍秀忠の娘・和子は、後水尾天皇に嫁ぎました。
江戸時代の初期に、朝廷との力関係を巡って緊迫していた時期のことです。

気苦労の多い人生だったのだなあと思うと少々気の毒ですが。
天皇にずっと疎まれていたわけではなく、仲良く過ごした日々もあったことに、ほっとしました。
7度の出産に恵まれましたが、男子二人は幼くして夭折。
幼児死亡率の高い時代ですから定かな事はわかりませんが、幕府としては疑いを抱いたかも‥
天皇としても、和子の身にまで危険が及ぶ可能性を考えたかもしれない‥?
巻末に天皇の側室と子のリストがあるのですが、これが多いのにはびっくり。幕府にもそういう将軍がいたけど、高齢まで出産していて女官も何とタフ‥

和子は長女の内親王を次の天皇にすすめ、側室の生んだ男子を養子としてその次の天皇に決めようと、双方の顔を立てた形にしたと。
本人の才覚も生かせたようですし、当時としては長寿。
生き抜いたのですね‥
女性のパワーを感じます☆

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