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2018年12月16日 (日)

「よろず占い処 陰陽屋へようこそ」

天野頌子「よろず占い処 陰陽屋へようこそ」ポプラ文庫ピュアフル

占いの店を開いたイケメン陰陽師と、じつは妖狐の男の子がコンビでおりなす、ほのぼの日常?ミステリー。

北区王子は、狐と桜と都電の町だそう。
のんびりした住宅地の商店街にとつじょ現れた占いの店。
中学生の沢崎瞬太は、瞬太の成績を心配した母親に引っ張られて「陰陽屋」を訪れますれます。

古風な衣装を身に着け、メガネ以外は安倍晴明そのもののような青年、その名も安倍祥明(よしあき)。
ホスト上がりで口はうまいが、あまりやる気はなさそう(笑)。
霊力もないのだが、知識はあり、これで常識もあって、ちょっとした謎やお悩みを解決していくのです。

両親のことを心配してやってきた女の子の家庭で起きていたこと、実は?
猫を飼っていたおばあさんの遺産の行方は?
行方不明の娘さんの消息を友達は知っているのか‥?

祥明を胡散臭く思いつつもここでバイトすることになった瞬太、じつは王子稲荷で拾われた本物の妖狐。
本人は隠しているつもりだが、ちょっと興奮すると耳に毛が生え、シッポまで出てきてしまう。

最後に出てくる祥明のお母さんだけは強烈なキャラだけど、この人ありで陰陽屋も祥明の性格も出来上がってるのよねー。
ほかはほとんど良い人ばかりで、ぽんぽんと快調に話が進み、あまりのテンポの良さに‥
今読んだの、小説だっけ?と妙な感想が思い浮かんだほど。
楽しく読めました☆

2018年12月 2日 (日)

「銀河鉄道の父」

門井慶喜「銀河鉄道の父」講談社

面白いタイトルが効いてますね。
宮沢賢治の生涯を、主に父親の視点から、描いてあります。
さまざまな問題に直面しつつ、いつしか才能を開花させていった息子。

明治ですからねえ‥
真面目一方の堅物だった祖父の喜助が興した質屋と古着屋が成功し、地元の名士となった宮沢家。
父親の政次郎は、喜助の「質屋に学問はいらね」という方針で、小学校までしか行かせてもらえなかった。
成績は良く、教養もあり、浄土真宗の信仰に熱心で、年に一度夏には勉強会を主催していたんですね。
講師を招いて数日温泉に滞在してもらい、聴衆の滞在費まで費用のほとんどを負担していたとは太っ腹。

あいにく長男の賢治は、質屋には向かない性質だったのです。
政次郎は呆れたり不安になったり、それでも感情は溺愛に近い。
今の基準から言えば古くて頑固で横暴な夫で父親かもしれませんが、当時としてはむしろ甘いところもあるぐらい?
賢治が重病の時は二度も自ら病院に泊まり込んで看病して、周囲を驚かせることに。
進学を認め、何かとお金を出してやります。
賢治は才能の片鱗を見せつつ、若い頃は甘やかされたぼんぼん、って感じで、「雨ニモマケズ」のイメージと大違い。
それに、作家になろうとも考えていなかったんですね。

妹のトシも優秀で、日本女子大を出て、母校の女学校の教員もしていたそう。
トシは賢治の作った話を聞くのが大好きで、賢治も話して聞かせるのが楽しく、父親の目には仲が良すぎると映るほどだった。
いや、創作したものを喜んでくれる存在というのは、何より貴重ですからね。
トシが就職した後、孤独になった賢治は父への反発もあってか?父とは違う宗教へ。
日蓮宗にはまって経文を唱えながら町を歩くほどになり、かと思うと突然、東京へ行ってしまうのだが。
8ヶ月後、トシが結核になったと知って、すぐ戻ってきた賢治。
大きな荷物は、東京で一人、書き溜めた原稿だった‥

農学校に就職して、わかりやすい講義が生徒に好評だったという頃には、だいぶ大人になっていたのでは。
自費出版をした後、教職を辞めて、田んぼの中の離れに住み、畑仕事もして自立しようとした。
肥料の相談などの指導も、無料で試みていた。
その頃には、雨ニモマケズのような理想を抱いていたのでしょう。
ただ身体が余り丈夫でないことを考えると、野良仕事をしつつ粗食というのは無理だったのかも‥

奇矯にも見える行動をとる賢治ですが、ワガママとはちょっと違うんじゃないかな‥
めったにないほどの才能を抱えた人間には、やむにやまれぬものが内面にあるような気もします。
それが形となって奔出するまで、色々なことがあるのはどうしようもないのかも。

一部は賢治の視点から、偉大な父を超えられない重圧なども、描かれます。
家族の葛藤がトシの病気中に激しいせめぎ合いになるあたり、息を呑むような迫力。
どこまでが史実あるいは通説で、どこが想像を膨らませたものなのか、わかりませんが‥
どちらかと言えば抑えた状況描写の中に、生々しい感情が力強く描かれていて、引き込まれました。

平成29年(2017年下半期)第158回直木賞受賞作☆

2018年11月25日 (日)

「書店ガール 6」

碧野圭「書店ガール6 遅れて来た客」PHP文芸文庫

好評のお仕事小説シリーズ。
同じ書店員の世界ですが、主人公は途中で変わっていきます。
これは前作に続く内容で、読みやすく、わかりやすい。

宮崎彩加は、取手の駅ナカ書店の店長になって1年半。
吉祥寺店とは勝手が違い、小さな店でバイトも少なく、何かと制約も多い。
それでも成果をあげようと工夫していましたが‥
突然、社からもうすぐ閉店と告げられます。
閉店とわかるとバイトも集めにくいので、直前まで話してはいけないという辛い立場に。

ここでバイトを続けている田中くんは、実はめでたく作家デビューしています。
ニートな若者だった彼も、だんだんしっかりしてきてますね。
編集者の小幡伸光が担当なのですが、伸光は1作目の主人公(ダブルヒロイン)の亜紀の夫。
なんと、このデビュー作のアニメ化が決まり、これは素晴らしいこと。
ただ何かとトラブルが起きて、伸光は対処に追われて苦労します。
作者の勤務経験が反映しているせいか、リアルな迫力がありますね。

彩加には、別に気になっている問題もありました。
ちょっと素敵な男性がいるのだが、進展しそうでしない‥?
書店の閉店が相次ぐという現実を踏まえたシビアな問題を描きつつ、夢のある展望も見せて。
読後感はスッキリ。
彩加のあこがれの書店員・かってのダブルヒロインの理子もちらっと登場しました。
特別出演、という感じ?(笑)
7作目も出たようです!

2018年11月13日 (火)

「群青のタンデム」

長岡弘樹「群青のタンデム」角川春樹事務所

「教場」に続く警察小説。
あの時もちょっと思ったけど‥

今回は、二人の警察官の人生を追いつつ、連作短編でひとつひとつ事件が語られます。
警察学校で同点の主席だった戸柏耕史と陶山史香。
卒業後も成績を競い合い、気にかけ合うのです。
職場は違い、相棒というわけでもないのに。
二人は順調に出世していくのですが。
事件の関係者だった中学生の薫が史香を慕って警察学校に入り、警官となり、30年の歳月が流れます。

意外な展開で、これも愛情の形?という‥
長い間の気持ちを思うとズシンと来るものがあります。
「教場」はすごく面白かったんです!が、しまいに怖さが勝ちすぎて、警察学校は悪の巣窟か?!と思えてきたのと似たような~
えぇと、こんなヒドイ話でいいのか‥?っていう。
酷いと言っていいのかは、読み方もあるかも知れませんが、書き方もあると思うのです。
長い年月の挙げ句が‥
これで深く感動するというより‥後味悪くなってません?

ラストの印象を除けば、全体は、言葉を選び抜いて、すっきりと仕上がっています。
「傍聞き」の頃から変わらないスタイルですね。

2018年10月23日 (火)

「名もなき日々を」

宇江佐真理「名もなき日々を 髪結い伊三次捕物余話」文春文庫

「髪結い伊三次捕物余話」も終盤にさしかかっています。
お気に入りのシリーズ、ゆっくり読んでいます。

伊三次は義兄の髪結い床(床屋さんですね)も手伝いつつ、廻り髪結いの仕事も続けています。
伊三次と芸者のお文の息子・伊与太は、絵師に弟子入りしていましたが、師匠が急逝。
すぐには落ち着き先が決まらず、ひそかに恋する茜のことに思いを馳せます。

不破友之進の娘・茜は松前藩の奥女中となっていますが、剣の腕を生かすための警護役なので男装。表紙の若衆髷のきれいなお兄さん?が茜なのです。
藩では跡継ぎが病弱なため、お家騒動が持ち上がりかけていて、若君に好かれている茜は巻き込まれていきます。
そんなとき‥?
気丈な茜がふと見せた涙の理由が切ない。

伊与太は人気の若手絵師のところに手伝いに入ることとなり、葛飾北斎のところを尋ねるときに同行できたのも楽しい。
伊与太の妹は女髪結いになりたいと言い出すし、若い世代がいきいきしています。
大人世代もそれぞれに活躍どころを見せ、いくらかは不安もありつつ、長年の知り合いを見守るような気持ちになれて、心温まる読後感でした。

2018年10月16日 (火)

「月の満ち欠け」

佐藤正午「月の満ち欠け」岩波書店

2017年上半期、第157回直木賞受賞作。

月が満ちては欠け、また満ちていくように、何度でも生まれ変わる。あなたに会うために‥
望んで生まれ変わっていく女性・瑠璃を巡る物語。

自分の幼い娘が古いことを妙によく知っていて、実はある女性の生まれ変わりなんだと言いだしたら、どうするか?
一方、亡き我が娘の生まれ変わりだと言っている子がいると、聞かされた親の方は‥?

ごく普通の人々が、驚き戸惑い、半ばは信じつつなお悩み、半ばは疑いつつ否応なく振り回されていきます。
このリアルな普通っぽさと、思わず先を知りたくなるりたくなるリーダビリティがたまりません。

もともと、高田馬場のレンタルショップで出会った年下の恋人とは、わずか半年ほどの付き合い。
運命の恋なのね!と納得するほどの必然性や盛り上がりはあまり感じられないのです。
でも、生まれて初めて、本当に好きだと感じた‥
それが大事なのでしょう。
そこが切ない。

一途な気持ちのままだから、幼い少女に言われてもそれほど違和感はないけれど。
30余年とはいえ、そんなに何度も生まれ変わっても、相手は年取っちゃうし‥、どうなの?などとあれこれ頭を悩ませつつ。
終盤の思いがけない展開に、一瞬まさか‥と、周りを見回すような気になったり。
手練れの物語運びを堪能させていただきました。

2018年10月 2日 (火)

「マカロンはマカロン」

近藤史恵「マカロンはマカロン」創元クライム・クラブ

「タルト・タタンの夢」「ヴァン・ショーをあなたに」に続くシリーズ3作目。
お気に入りです。

下町にある小さなフレンチ・レストラン「ビストロ・パ・マル」。
気取らない店だが、シェフの三舟はフランスで修行した本格派。それも各地を渡り歩いたという。
三舟を支え快適な空間を作るスタッフの誠実さと、フレンチの伝統を活かしつつ親しみやすい料理。
こんなお店が近所にあったら‥!と想像するだけでも楽しくなります。

三舟シェフは、店で起きる不審な出来事の謎や客からの相談を、つぎつぎに解き明かしてくれる名探偵でもあります。
大学教授がフランスで経験した悲しい別れに、実は意外な意味が?
有能なパティシエが突然消えた理由は?
夫婦の客が注文した青い果実のタルトとは?

フランス料理ならではのモチーフにからんだ謎と、美味しい料理を楽しめます。
お客どうしの心遣いも秘密もイヂワルも、すっかり見抜かれてしまうので、時には心温まり、時にはほろ苦くもありますが。
そこは料理の手ぎわ同様、冷静でさりげなく、穏やかに。
料理を題材にした小説には好きなシリーズも多いのですが、この品の良さが素敵ですよね。
丁寧な仕事ぶりに心癒されます。

2018年9月24日 (月)

「あきない世傅 金と銀(四)貫流篇」

高田郁「あきない世傅 金と銀(四)貫流篇(時代小説文庫)」角川春樹事務所

人気シリーズ4作目。
1作目も2作目も3作目もあっと驚く結末でした。
そして?

幸は、大阪天満の呉服商「五十鈴屋」に女衆として奉公していました。
店主の祖母である「お家(え)さん」と、番頭の治兵衛に認められ、四代目店当主の後添いに。ところが、放蕩者の四代目は、あっけなく‥

次男の惣次が五代目徳兵衛として跡を継ぐことになり、幸を嫁に迎えるのを条件とします。
幸を気に入っていたはずの五代目との間がきしむようになり、ある日突然‥

夫の出奔が理解できないまま、なんとかしのごうとする幸。
お家さんから、思いがけない願いを聞いて涙します。
幸の才覚を戦国武将とまで評価していた治兵衛は、三男の智蔵に期待をかけます。
貸本屋で戯作者の道を歩んでいた智蔵は?

ちょっと展開が急ですが、まあまあ収まるところへ収まった、という感もあり。
もう誰が見てもべっぴんさんの幸が、御寮さんとして力を発揮し始めます。
とはいえ、大阪には「女名前禁止」という決まりがあったんだそうで。一家の商売を女が表に出て仕切ることは出来なかったという。
四代目の最初の妻が実家で活躍しているとは、頼もしい。名はともかくとして、こういう実態はあったんでしょうか。

智蔵は商才があるというわけではないけれども、人当たりがよく柔軟。
智蔵の生き方や考え方が独特で、なるほど、若い頃のほのかな気持ちだけじゃなく、成長してこうなった男ならこのときの幸と合うのか!と面白かったです。

2018年9月18日 (火)

「家と庭」

畑野智美「家と庭」KADOKAWA

下北沢に住む一家の話。
家と庭? つまりは、家庭ですね。

下北沢と言えば、駅前には小劇場や古着屋など、若者文化の世界があるところ。
にぎやかな街を抜ければ閑静な住宅街。
そういう羨ましい環境に家がある中山望は、24歳のフリーター。
学生時代から続けているバイトをしているだけで、これでいいのか、迷いつつも行動には出ません。

父は単身赴任、祖母は入院中、母が一家を支える存在。
次姉の文乃はおとなしく、わけあって一人で電車やバスに乗れないのです。
やや気ままな妹は、もうすぐ受験。
そんなところへ、勝ち気な長姉の葉子が突然、娘を連れて戻ってきます。
女ばかりに囲まれる長男・望は、さて?

家族の仲は良く、出ていくのが難しい環境かも‥
一人一人にじつは悩みもありますが、さほど深刻ではないかな。
バイト先の店長や後輩、長姉の夫、姪の先生、幼馴染‥
互いに少しずつ関わりながら、ゆるやかにゆるやかに変わっていく‥
大したことが起こらない、でもある日ふっと物事が動くリアリティ。
望くんも、じっとしてはいられませんよ?(笑)

すべてが理想通りというわけじゃなくても‥
これでいいのかもね。
という穏やかな気分になりました。

2018年9月 8日 (土)

「戦場のコックたち」

深緑野分「戦場のコックたち」東京創元社

第二次世界大戦にコックとして従軍したアメリカの若者の話。
日本人作家が丁寧に描いています。

1944年、ティムの周りでも出征する人が増えてきた。
徴兵されるより志願するほうがカッコイイかな、とティムも志願することを決めます。おばあちゃんのレシピを見るのが好きだったティムは、炊事担当の特技班へ。
素直なティムには、キッドというあだ名が付きます。

班のリーダーは冷静な眼鏡くんのエド。普段はおとなしいが頭が切れるホームズ役です。
班の面々は学園モノっぽい乗りだけど、置かれた状況は‥

使用済みパラシュートが大量に集められたのはなぜか。
粉末卵がなくなってしまった理由は?
軍が駐留する地域の住民にも謎が‥
戦場で起きる謎というのが一筋縄ではいかず、バラエティに富んでいて、よく調べてよく考えてあると感心しました。

ごく普通の男の子が、命がけで戦うのもスリルがあってカッコイイかなというぐらいの気分で志願し、ノルマンディー降下作戦に参加。
ヨーロッパ戦線ねぇ‥ノルマンディーですか‥
もうすぐ終わる時期ではありますが。

普通の男の子が経験した戦争。
直面した状況が詳しく書かれているので、読むのはちょっと大変ですが、良心的な内容を素直に読めるように書いてあると思います。
なめらかな文章に「翻訳物でもこんな読みやすいのもあるのね」とふと思い、いやこれは日本人が書いたんだったわと気づきました、2度(笑)
エピローグも良かったです。

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