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おすすめ本

2019年4月21日 (日)

「劇場」

又吉直樹「劇場」新潮社

又吉の小説2作目。
今度はお笑いではなく、演劇の世界で芽を出そうともがく若者の恋と葛藤を描いてあります。
お笑いのほうが、体験も滲んでいて、ユニークと言えばユニーク。
個性的な表現を追求する気持ちには、演劇のほうが感情移入しやすかったです。

永田は、友達と上京、小劇場で活動していました。
たまたま画廊で一緒になった感じのいい女性・沙希に声をかけます。この人ならわかってくれるだろうと。
永田の方はともかく、紗希がよく付き合う気になったな~という出会いですが。
沙希もじつは演劇が好きで上京したので、何かを感じ取ったのでしょう。

暗くて不器用な、演劇に取り憑かれている永田。
それでも二人は暮らし始め、楽しいひとときを経験し、微笑ましくいたわりあいます。
芝居はうまくいかないほうが多く、永田は沙希が関わる他の人達に嫉妬するようにも。
後半は、好きな女性にしてはいけないことのオンパレード。
何度かやり直そうとするのですが‥
真剣に仕事に集中して、やっと少し成功し始めても、取り返しがつかない。

最後に懸命に愛を伝えようとするのが切ない。
そんなに好きなら、互いに気持ちが残っているのなら。
とも思うけど‥
紗希はぼろぼろですよね。この後も苦労をかけられそうだということを考えると、こんないい子はもっと平和な環境で暮らしたほうがいいのかもしれない。
そんなことを思いながら読了。
「出会わなければもっと早く東京に負けていた」という沙希の言葉に説得力がありました。
ただ苦しんだだけではない、必然的な出会いだったのでしょう。

2019年1月20日 (日)

「三鬼」

宮部みゆき「三鬼 三島屋変調百物語四之続」日本経済新聞出版社

三島屋変調百物語の4冊目。
中編が4本入った充実した内容です。

神田の人気ある袋物屋「三島屋」では、変わり百物語も評判となっていました。
不思議な経験を語りたい人を一度に一人ずつ迎え、姪のおちかが一人で話を聞き、おちかが叔父に一通り話した後は、「話して話し捨て、聞いて聞き捨て」というお約束。

第一話 迷いの旅籠
名主と共に村から出てきた百姓の女の子が語ったのは、幽霊を見た話。
先祖を迎える行灯祭りが禁じられてしまったため、村外れの空き家を行灯に見立てて飾る行事が行われました。
ところがそこへ、亡くなった人が姿を見せてしかも留まり‥?

第二話 食客ひだる神
箱根の七湯巡りをした夫婦に、ひだる神が取り憑いた?
商売は繁盛するが‥
気のいい夫婦はついに?
微笑ましい成り行き。

第三話 三鬼
お武家のしかもとある藩の江戸家老という大人の男性の訪問。
若い頃に左遷されて北部の寒村へ赴任した。
閑職のようだが、逃散もあったり獣害の危険もある土地で、腕が立つ侍がいる必要があったのだ‥
貧しい郷の悲惨な現実を思わせます。

第四話 おくらさま
島田髷を結い、娘のような振り袖を着た老女が登場。
生家では「おくらさま」に毎日捧げ物をしていたと。
だがそのために、犠牲になり‥?
姿の消えた老女が何者だったか、探し始めるおちか達。

おちかの身の上にも変化が起きるかもしれない、という思わぬ出会いがあります。
素直な若い娘には辛すぎる過去を抱えたおちか。
作品も中編にしておくにはもったいないような重みがありますが、これぐらい世間の広さ深さを感じることでやっと、おちかも少しは気持ちを立て直せるのでしょうか。
幸せを祈ります。

2018年8月14日 (火)

「東福門院和子の涙 下」

宮尾登美子「東福門院和子の涙 下」講談社文庫

徳川二代将軍秀忠の娘・和子は、後水尾天皇に嫁ぎました。
江戸時代の初期に、朝廷との力関係を巡って緊迫していた時期のことです。

気苦労の多い人生だったのだなあと思うと少々気の毒ですが。
天皇にずっと疎まれていたわけではなく、仲良く過ごした日々もあったことに、ほっとしました。
7度の出産に恵まれましたが、男子二人は幼くして夭折。
幼児死亡率の高い時代ですから定かな事はわかりませんが、幕府としては疑いを抱いたかも‥
天皇としても、和子の身にまで危険が及ぶ可能性を考えたかもしれない‥?
巻末に天皇の側室と子のリストがあるのですが、これが多いのにはびっくり。幕府にもそういう将軍がいたけど、高齢まで出産していて女官も何とタフ‥

和子は長女の内親王を次の天皇にすすめ、側室の生んだ男子を養子としてその次の天皇に決めようと、双方の顔を立てた形にしたと。
本人の才覚も生かせたようですし、当時としては長寿。
生き抜いたのですね‥
女性のパワーを感じます☆

2018年8月12日 (日)

「東福門院和子の涙 上」

宮尾登美子「レジェンド歴史時代小説 東福門院和子の涙 上」講談社文庫

徳川二代将軍・秀忠とお江の娘、和子(まさこ)は、武家から天皇に初めて嫁いだ女性。
どんなんな人生を送ったのかしら‥という興味があり、読んでみました。

江戸から和子についていった侍女のゆきの視点から。
当時の話し方をある程度まで再現したと思われる古風な言葉づかいで、流麗に語られます。
ゆきの知っている範囲の、ちょっと前の時代の噂話や和子の婚約から始まります。
今の若い子にとっては、古文並み?
こちらは長年大河ドラマをよく見てきたし、読んでいるうちに慣れてわかるようになりましたけどね(笑)

江戸時代の初期に、ある意味、公武合体が目指されたわけですね。
和子はおっとりと品が良い優しい娘さんだったよう。
朝廷側の抵抗感はかなり強く、当初は会うことすらままならなかった。
和子の親の秀忠とお江は仲のいい夫婦だったし、その後も大奥だったら、毎朝一度はご先祖の御霊を拝むために夫婦は会えたのですけどね。

ところが、天皇というのは、大勢の女官に一日中囲まれているような暮らしなのですね。
しかも、その中にお手つきがたくさんいるのだから‥
出来るだけ会わせまいとするのも無理からぬ所?
天皇はおそらく、幕府の権威と財力をかさにきた女と予想していたのかも‥などと想像しました。その誤解は晴れるんです。

あまり知られていない時代のことを詳しく書き込んであるので、面白く読みました。

2018年4月28日 (土)

「みかづき」

森絵都「みかづき」集英社

学校教育が太陽なら、塾は月。子どもたちを優しく照らす‥
塾の始まりから親子三代にわたる物語。力作です。

昭和36年、小学校の用務員をしていた大島吾郎。
勉強がわからない子に教えてあげていて、教員免許を持っていない吾郎の教え方がわかりやすいと評判になっていました。
通ってくる生徒の一人の蕗子は、教える必要もなさそうな成績の良い女の子。
蕗子の母親の千明が吾郎のもとを訪れ、教える才能を見込んで、塾を立ち上げようと誘います。
千明は、半ば強引に、結婚まで持ち込み(笑)

教育の話、塾の話というと、真面目で説教臭いかもしれない気がしますが。
気が強く個性的な千明と、大らかで人望があるがいささか女にだらしがない吾郎というコンビで、いたって人間的に、躍動するように話は進みます。

当初は勉強についていけない子どもたちに補習していたのが、しだいに進学指導がメインに。
方針を巡っての対立から、夫婦仲にも影響が出ます。
子どもたちの性格の違い、それぞれの進路も時代を映して。

文部省は、長らく塾を白眼視していたのが、年月を経て学校を補完するものとして認めるようになります。
しかし、「ゆとり教育」の真相というのは、ちょっと衝撃的でした。
優秀な子がもっと上へ行けるよう、そうでない子は放っておくということだったとは‥?
そればかりではないような気もしますが、時代の風潮として一面の真実かと。

孫の世代の一郎がフリーターだったり、そんな子がまた教育の場を設けるようになったり。
戦後の激動期を経て数十年、こんな時代が来たと。
ある意味、教育には終わりがない‥
いい締めくくりでした。

2017年本屋大賞2位。

2018年4月 7日 (土)

「桜風堂ものがたり」

村山早紀「桜風堂ものがたり」PHP研究所

百貨店内の大きな書店で働いていた青年が、思わぬ事故で辞めることになり‥?
優しい気持ちにさせてくれる物語です。

風早町の古い百貨店本館にある銀河堂書店。
月原一整は、隠れた名作を見出す才能があると店長に認められていました。
才能ある店員が揃っている職場ですが、毎日の重労働に加えて、勧めたい本のポップを作ったり、本の並べ方を工夫したり。
決して楽な仕事ではありません。
地道な取材を感じさせる描写で、ネット販売が主流になっていく時代に、町の書店への応援歌となっていますね。

えてして軽い気持ちで行われる万引きも、実は書店に大きなダメージを与える問題。
思わぬ事件の顛末で書店の評判が落ち、一整が責任を取る形で辞めることになります。
これほど立派な人達が揃っている店なのに、なすすべもなく‥

傷心の一整は旅に出て、以前から交流のあった桜風堂の主人と出会います。
時の流れに取り残されたような山間の小さな町・桜野町で、たった一つの書店が閉店しそうになっていた‥
子猫やオウム、桜風堂の孫の少年らとの暮らし。
そこで出会った作品を巡って、銀河堂の仲間たちと再び‥?
過去にあったことで孤独がちだった一整が、居場所を見つけていく。

この作者ならではの清潔感のある文章の、柔らかな描写が心地よい。
モチーフはやや少女っぽく感じられるかもしれませんが、さすが読ませる力がありますね。
夢のある展開で、盛り上がります!
桜野町に行ってみたい。
この表紙の窓辺へ‥

2017年11月18日 (土)

「希望荘」

宮部みゆき「希望荘」小学館

杉村三郎シリーズ、4冊目。
短編連作というか、中編連作というか。
離婚の衝撃の、その後、を描いています。

社誌の編集をしていた杉村は、時おり巻き込まれて調査のような仕事もしていました。
財閥令嬢の妻と離婚して職も失い、今は私立探偵になっています。

「聖域」
亡くなったはずの女性が目撃された事件。幽霊なのか?
杉村が調べていくと、じつは‥
娘を訪ねてアパートに行くと、そこにいたのは?
頼りなげな杉村だが、既にご近所さんに親しげにされ、かっての勤め先で常連だった喫茶店のマスターまで近くに店を出しているという。
あたたかな環境にほっこり。

「希望荘」
息子からの依頼で、老人ホームで亡くなった父親が生前、殺人をしたかのような告白をしていたという。
本当なのか‥?
起きていたことを淡々と順々に調べていく杉村。
希望という名は皮肉なのか、何なのか‥

「砂男」
離婚後、一度故郷の山梨に帰っていた杉村。もともと結婚には反対されていて、口の悪い母親には当たられるのが強烈‥でも、こういう人はいる気もします。
周りは仕事口を探してくれて。
行方不明になった人物の謎を解いたことから、蛎殻という名士に見込まれ、調査員になるよう勧められることに。

「二重身(ドッペルゲンガー)」
古い建物にあった杉村の事務所は震災で倒れ、広い屋敷に間借りしています。
家の様子をうかがっていた黒ずくめの少女は?
東日本大震災が起きてから、行方がわからないという男性がいた‥

基本は現実味のある設定ですが、普通は起こらない、思いもよらない展開になるのが、さすが宮部さん。
日常の中に潜む悪意というか、最初は悪人というほどではなかったとしても、状況に応じてやることがだんだん‥
何考えてるんだかという人物がいろいろ登場します。
人間は勝手な思惑でぶつかり合うものなんだねー、と。

大人しく真面目でのほほんとしているようで~実は結構変わり者かもしれない杉村。
杉村の味方がだんだん増えていく のが、救いとなっていますね。

2017年11月 4日 (土)

「欲と収納」

群ようこ「欲と収納」角川文庫

タイトルどおりの、書き下ろしエッセイ。
本と着物を処分できない気持ちは、良~くわかります。

子供の頃にはまだ、物が多すぎて困っている人などいなかった、というのはよくわかる同じ世代。
物が手に入ると嬉しくて、捨てるのはもったいない。
バブル期も経験してン十年、いつしか持ち物がどっと増えたが、どうやって片付けたらいいか知らないのだ‥

紙や書類の整理など、悪戦苦闘が語られ、片付く部分もあり、いつまでたっても残っている部分もあり。
着物好きがたどる道も具体的にわかるので、このへんが抱腹絶倒。
そうそう、和装下着や着付けの小物など、試行錯誤しているうちに増えちゃうの。今の着物好きの悩みよね。
どれか捨てようかと思っても、なかなか選べないと来てる。
ま、収入が桁違いなので~
上等なお着物をこんなに大量に買う気分はわからないけど。

お母さんが群さんの収入を当てにして、やたらと高価な着物を欲しがるようになってしまったとのこと。まあ買ってあげられるだけの力があったから‥
お母さんが入院したので家の片付けに行ってみたら、ろくにたたみもせずにしまい込んでいたので、かなりの着物がカビていたとは。うわーうわー。
着た後に、せめて一日干しておけば、ずいぶん違ったでしょうに。
この悲憤はわかります‥

でも他のときも、群さんって、何だかいつも怒っているような?
そこがちょっと不思議になりました。

2017年6月24日 (土)

「コンビニ人間」

村田沙耶香「コンビニ人間」文藝春秋

2016年上期、第155回芥川賞受賞作。
コンビニに勤め続ける女性が主人公。

古倉恵子は36歳、独身。
子供の頃から変わっていて、周囲に驚愕されること度々。
できるだけ普通のふりをしているのだけど、家族には心配されてきました。
わかりやすい文章で、大げさなこともなく、読みやすいですね。
変わっているエピソードと、普通のふりをする方法が芥川賞的かも。

幸い、恵子はコンビニのバイトが性に合い、大学卒業後も就職せずにバイトを続けて、18年目になります。
マニュアルが決まっているとはいえ、プロとして有能なので~
読んでいて、いいじゃないの~何が悪いの?って気分に。
発達障害というタイプに相当するのでしょうが‥そう一口に言っても、それぞれ個性が違うわけで。

新入りの男性・白羽がやってきて、これがなんとも理屈っぽいうえに、店員としては困ったやつ。
あっさり切り捨てることなく、白羽の話を聞く恵子さん。
恋愛経験のない恵子は、男性と暮らしていたら周りを安心させられるかと、同居することを思いつく‥
おいおい?

ここまで変わってはいないにしても、恋愛経験の少ない女性が見合いしたり、ふとしたきっかけで付き合い始める時ってねえ、周りからのプレッシャーやその場の成り行きかもしれない。
自分だって、変わっている部分だけをより出して書いたら、けっこう通じるものがあるのだろうか?などと考えてみたり。いやタイプはぜんぜん違うけど。

同調圧力って、どこにでもあるものなのでしょうが、日本は特に強いほうかもしれません。
いろいろ考えさせられる、芯になる部分があり、どことなく仄かな明るさもあり。
多くの人が読むことになる賞にふさわしい作品だと思います☆

2016年11月12日 (土)

「物語のおわり」

湊かなえ「物語のおわり」朝日新聞出版

未完の小説が繋いでいく物語。
湊かなえにしては意地悪度が少なく、読後感がいいです☆

深い山合いの盆地で、小さなパン屋を営む両親のもとで育った少女・絵美。
小さな頃から空想好きで、小説家になるのが夢でした。
年上の男の子・ハムさんと知り合い、年月がたって婚約することに。
そんなとき、作家デビューのチャンスが訪れますが‥?

「空の彼方」という短編小説はこういった内容で、結末が描かれていないもの。
この原稿が北海道旅行をしている人の手から手へ渡り、それぞれの立場で違う結末を思い描くのです。

夫より先に旅行先に来ている、ある悩みを抱えた女性。
フェリーで出会った二人連れに、原稿を渡されて‥?
家を継ぐために、カメラマンになることを諦めようとしている男性。
そして、不登校になっていた少女は‥

昔の話から始まるせいか、全体的には古風で真面目な雰囲気。
小説家を目指す少女に思い入れがあるのでしょうか。
ちょっとした捻りがきいていて、展開に意外さもあり、面白く読めました☆

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