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2018年9月18日 (火)

「家と庭」

畑野智美「家と庭」KADOKAWA

下北沢に住む一家の話。
家と庭? つまりは、家庭ですね。

下北沢と言えば、駅前には小劇場や古着屋など、若者文化の世界があるところ。
にぎやかな街を抜ければ閑静な住宅街。
そういう羨ましい環境に家がある中山望は、24歳のフリーター。
学生時代から続けているバイトをしているだけで、これでいいのか、迷いつつも行動には出ません。

父は単身赴任、祖母は入院中、母が一家を支える存在。
次姉の文乃はおとなしく、わけあって一人で電車やバスに乗れないのです。
やや気ままな妹は、もうすぐ受験。
そんなところへ、勝ち気な長姉の葉子が突然、娘を連れて戻ってきます。
女ばかりに囲まれる長男・望は、さて?

家族の仲は良く、出ていくのが難しい環境かも‥
一人一人にじつは悩みもありますが、さほど深刻ではないかな。
バイト先の店長や後輩、長姉の夫、姪の先生、幼馴染‥
互いに少しずつ関わりながら、ゆるやかにゆるやかに変わっていく‥
大したことが起こらない、でもある日ふっと物事が動くリアリティ。
望くんも、じっとしてはいられませんよ?(笑)

すべてが理想通りというわけじゃなくても‥
これでいいのかもね。
という穏やかな気分になりました。

2018年9月 8日 (土)

「戦場のコックたち」

深緑野分「戦場のコックたち」東京創元社

第二次世界大戦にコックとして従軍したアメリカの若者の話。
日本人作家が丁寧に描いています。

1944年、ティムの周りでも出征する人が増えてきた。
徴兵されるより志願するほうがカッコイイかな、とティムも志願することを決めます。おばあちゃんのレシピを見るのが好きだったティムは、炊事担当の特技班へ。
素直なティムには、キッドというあだ名が付きます。

班のリーダーは冷静な眼鏡くんのエド。普段はおとなしいが頭が切れるホームズ役です。
班の面々は学園モノっぽい乗りだけど、置かれた状況は‥

使用済みパラシュートが大量に集められたのはなぜか。
粉末卵がなくなってしまった理由は?
軍が駐留する地域の住民にも謎が‥
戦場で起きる謎というのが一筋縄ではいかず、バラエティに富んでいて、よく調べてよく考えてあると感心しました。

ごく普通の男の子が、命がけで戦うのもスリルがあってカッコイイかなというぐらいの気分で志願し、ノルマンディー降下作戦に参加。
ヨーロッパ戦線ねぇ‥ノルマンディーですか‥
もうすぐ終わる時期ではありますが。

普通の男の子が経験した戦争。
直面した状況が詳しく書かれているので、読むのはちょっと大変ですが、良心的な内容を素直に読めるように書いてあると思います。
なめらかな文章に「翻訳物でもこんな読みやすいのもあるのね」とふと思い、いやこれは日本人が書いたんだったわと気づきました、2度(笑)
エピローグも良かったです。

2018年9月 1日 (土)

「暗幕のゲルニカ」

原田マハ「暗幕のゲルニカ」新潮社

ピカソの名作「ゲルニカ」を題材にした作品。
作者もそうだった、MoMA(ニューヨーク現代美術館)のキュレーターである日本人女性がヒロイン。

1930年代、スペインのゲルニカが爆撃されました。
ピカソはスペイン生まれ。義憤を感じて、大作に取り組むのです。
当時ピカソの愛人だった写真家ドラ・マールは、制作現場の写真を撮り続けます。
ピカソにもドラにも存在感があり、このあたりのエピソードはとても面白かったです。

そして、2001年、9.11。
2003年、MoMAに勤める瑤子は、戦争やテロに負けないというメッセージを改めて発信するため、ゲルニカを展覧会に出品してもらいたいと願います。
ゲルニカはスペインの至宝として、長年貸し出しはされていないため、交渉は難航しますが。
美術館の動きは、さすがリアルです。
現実離れしているぐらい華やかな~有力なパトロンも、意外と実在しているのかと思ったり。

ヒロインの行動にやや謎があり、クライマックスに向かうあたりがどうもこなれていないので、感情移入できなくなってしまいました。
この展開、ちょっと肩に力が入っている‥?
構成や結末で、メッセージは伝わります。

2018年8月25日 (土)

「マカン・マラン」

古内一絵「マカン・マラン 23時の夜食カフェ」中央公論新社

路地裏にある小さなお店「マカン・マラン」。
インドネシア語で夜食という意味。
そこに集う人々は‥

古民家風の一軒家、昼間はダンスファッション専門店の「シャール」。
夜は不定期に「マカン・マラン」となります。
店主は派手な化粧をした大柄なドラァグクイーンのシャールさん。
訪れた人の顔を見て、体調に合う食材を選び、身体を癒やしてくれます。
鋭い指摘を含んだ言葉も、穏やかに添えて。

身体に優しく、美味しそうな料理の数々にうっとりして、気分が良くなります。
女装のシャールさんが、かっては男らしく見える優等生だったというのも不思議なような納得のいくような。
しっかりした人柄が全体を通して感じられるのです。

不定期なために、幻の人気店として強引に取材をしようとする記者も出たり。
店が地上げ屋に追い出されそうになったり。
思わぬ事件で周りは波立ちながらも、そこは暖かな灯台のような光を放っています。
続編も読まなくちゃ☆

2018年8月 6日 (月)

「まことの華姫」

畠中恵「まことの華姫」KADOKAWA

畠中恵の江戸時代物。
シリーズにもできそうですが、今の所これ一作ですね。

江戸時代の両国界隈。夜になっても見世物小屋でにぎわっています。
あたりを取り仕切る地廻りの山越親分の娘・お夏は、姉の死に父親が関わっているのではという疑いを抱いていました。

姫様人形を遣う腹話術で人気が出てきた月草という芸人。
この人形の華姫が真実を語るという噂が立ち、お夏は出かけていきます。
月草もなかなか美形だけれど存在感が薄く、華姫のほうがずっと生き生きしているよう。
客席と掛け合い、人気を博していて、追っかけまでいる?

子供が行方不明になったままの夫婦が改めて子供を探したら、7人も名乗り出てきた。果たして、どの子が本物か。
華姫が盗まれてしまい、誰が何のために?
月草が探した結果は‥
西国での放火事件が江戸にまで影響し、今になって‥?

華姫がいきいきしていて魅力的。
もしかしたら‥生きているんじゃないか?とか。
最初は表紙イラストのイメージで読みましたが、最近、文楽を見る機会があり、文楽のお人形だともう本当にちょっとした仕草が色っぽくて目が釘付けなんですよ!すっかり、そのイメージになりました。
ヒロインは13歳の女の子なので、他のシリーズと違った展開ができそうですよねえ。

2018年7月 2日 (月)

「最後の晩ごはん ふるさととだし巻き卵」

椹野道流「最後の晩ごはん ふるさととだし巻き卵」角川文庫

シリーズ1作目。

芸能界を追放された若者が定食屋に転がり込み、思わぬできごとに出会い‥?!

若手イケメン俳優の五十嵐海里は、嘘のスキャンダルで罪を着せられ、活動休止に。
郷里の神戸に戻ろうとしますが、家族にも顔向けできない。
行くあてもない彼が、たまたま定食屋の主人に拾われます。

夏神留二の定食屋「ばんめし屋」は、夜だけ営業しているちょっと不思議な店。
海里はそこで働くことになったのですが、そこにはとんでもない客が。
しゃべる眼鏡のロイドに、幽霊‥?!

今風なモチーフと、海里が習う料理の基礎のような話題、そこに思わぬ存在までが絡んできて、びっくり。
展開が読めず、やや印象がまとまらない読後感でした。
基本はあたたかいので~奇妙な設定の面白さをだんだん組み合わせて、生かしていくのかな‥?
と期待してます☆

2017年9月12日 (火)

「おおあたり」

畠中恵「おおあたり」新潮社

安定した人気の「しゃばけ」シリーズも15作目。
今回は、いろいろな「おおあたり」の話が5つ。

長崎屋の若だんな、わけある生まれゆえに病弱な一太郎は、妖たちと仲良く離れで暮らし、ゆっくり大人になってきています。
少しは役に立ちたいという思いは強く、出来る時にはちょこっとだけ、頑張ります。
まあすぐ寝込んじゃうんですが、その合間に(笑)

幼馴染の栄吉は、和菓子屋の跡取りなのですが、あんこを作るのが異常に下手という。どっちかというと、お笑いキャラでしたが~
辛あられを作ってみたら、これが大当たり!
ところが? 意外な展開に。

獏の場久が離れで一席設けての怪談話で、おおあたり?
貧乏神の金次がなぜか富くじで、おおあたり。
絡む事件は、けっこう深刻ですね。根っから悪いやつばかりではないものの‥
さまざまな味が楽しめます。

仁吉と佐助の出会いの話では、5歳の若だんなの可愛らしい姿に出会えます。
若だんなラブの兄や達の一途さにほっこり。
人間には真似ができない?

いたって気のいい若だんなは、病弱なまんまでも、これほど取り柄がなかったとしても、存在価値はあるんだよと言ってあげたい。
実際には、頭も切れて、心が広く、ちゃんと役に立ってますよね。

終わって欲しくないシリーズ。
ちょっとは新味も欲しいけど、いつもの楽しさも欲しい~読者の贅沢な望みにこたえるのも大変でしょうね。
今回は、栄吉のあんこの物凄さで~大笑いの幕引き☆

2016年11月 8日 (火)

「佳代のキッチン」

原宏一「佳代のキッチン」祥伝社文庫

移動調理屋として車で全国を回る女性の物語。
近くに来てくれたら、何を作ってもらおうかな?

佳代は15年前に失踪した両親を探すため、全国を回る調理屋を思い立ちます。
改装した厨房車で暮らし、その土地の天然水を汲める場所に車を止めさせてもらう。
「いかようにも調理します」と札を出し、食材を持参すれば、一品なら4人前まで500円。

両親の手がかりを求めて移動してゆく土地の、名産品を生かした料理が美味しそう。
中学卒業間際に両親が失踪した後、給食係の手伝いなどをして弟の和馬を育て上げた佳代。
今はりっぱな大人となった和馬とのやり取りは、ほほえましい。
しかし、理想郷を追い求めていたらしい、この両親はいったい‥
ヒッピームーヴメントの生き残り世代らしいけど、かなり謎(笑)

行く先々で思わぬ出会いがあったり、ちょっとした人助けをしたり。
美味しく読めて、人情ありで、なかなか拾い物でした☆

2016年11月 1日 (火)

「流」

東山彰良「流」講談社

平成27年(2015年)上半期、第153回直木賞受賞作。
台湾生まれで日本育ちの作者が描いた作品。
重いものを含んでいますが、濃厚で勢いよく、エンタメ性にも富んでいます。

1975年。
台北の高等中学に通う葉 秋生(イエ チョウシェン)は17歳。
台湾の総統・蒋介石が亡くなって一ヵ月後、祖父が殺されてしまう。
かって中国大陸で激しい国共内戦があり、敗れた国民党は台湾に渡って「外省人」と呼ばれていました。
(もともと台湾に住んでいた人々のことは、本省人だそう)
そのへんの成り行きをあまり知らないので、実感を伴う描写に圧倒されます。
秋生をかわいがってくれた祖父は、戦時には大陸で悪名高い存在だったらしい‥

秋生は成績優秀だったのだが、ひょんなことから迷走する青春を送ることに。
幼馴染の悪友・小戦や、年上の初恋の女・毛毛(マオマオ)との関わり。
もっと恐るべきろくでなし達も出入りし、こちらも熱気溢れる展開。
1970年代の台湾って、こんなに凄かったの?

日本へ、そして大陸へ。
怒涛のような勢いで、命のやり取りも含む危機が描かれます。
そして結局‥
共産党と国民党の戦いの本質とは?
たまたま親しかった人のいる方の、味方に付いただけとは。
年月を経て許されることと許されないこと‥
ある感慨に胸を打たれます。

2016年9月27日 (火)

「若様とロマン」

畠中恵「若様とロマン」講談社

若様組シリーズ3作目。
これで終わりなのかな?

江戸の時代には武家の跡継ぎだった若様たち。
もはや家には録もないのに身内は多く抱え、警察官に。
しっかり者の長瀬や腕の立つ園山をリーダー格に、同じような出身の若者たちが、若様組と自称していました。

沙羅は、成金の小泉商会の一人娘で、行動的な女の子。
居留地で育った皆川真次郎は、西洋菓子職人。沙羅と長瀬と3人は幼馴染で、若様組の面々とも親しくなります。
ある日、小泉商会の当主が彼らを集め‥?

富国強兵の明治の世。
戦争の足音が近づく時代に、小泉が考えたこととは?
きなくささを感じる時代背景とは裏腹に、主に描かれるのはなんと、若者たちのお見合い騒動。
確かに、それは大事かも!
仲間を増やし、人脈を作ることを目指したんですね。

時代色を生かした、ちょっとした事件を解決するうちに、それぞれの人生は違う方向へとスタート?
父親の思惑をすっ飛ばすような沙羅の行動力が頼もしい。
ある意味では父親の願う雄飛そのもの?

話のスケールが大きくなったり縮んだりしつつ、主役級の行く末は(方向性はあるけど)はっきりとまではしないのが好みなのかな?
続きがあるとすれば、楽しみです☆

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