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2018年10月 2日 (火)

「マカロンはマカロン」

近藤史恵「マカロンはマカロン」創元クライム・クラブ

「タルト・タタンの夢」「ヴァン・ショーをあなたに」に続くシリーズ3作目。
お気に入りです。

下町にある小さなフレンチ・レストラン「ビストロ・パ・マル」。
気取らない店だが、シェフの三舟はフランスで修行した本格派。それも各地を渡り歩いたという。
三舟を支え快適な空間を作るスタッフの誠実さと、フレンチの伝統を活かしつつ親しみやすい料理。
こんなお店が近所にあったら‥!と想像するだけでも楽しくなります。

三舟シェフは、店で起きる不審な出来事の謎や客からの相談を、つぎつぎに解き明かしてくれる名探偵でもあります。
大学教授がフランスで経験した悲しい別れに、実は意外な意味が?
有能なパティシエが突然消えた理由は?
夫婦の客が注文した青い果実のタルトとは?

フランス料理ならではのモチーフにからんだ謎と、美味しい料理を楽しめます。
お客どうしの心遣いも秘密もイヂワルも、すっかり見抜かれてしまうので、時には心温まり、時にはほろ苦くもありますが。
そこは料理の手ぎわ同様、冷静でさりげなく、穏やかに。
料理を題材にした小説には好きなシリーズも多いのですが、この品の良さが素敵ですよね。
丁寧な仕事ぶりに心癒されます。

2018年5月26日 (土)

「新しい道徳」

北野武「新しい道徳」幻冬舎

たけしの新・道徳論。
小学校で「道徳」が正課になり、成績がつけられるようになることになったために今(というか発行時)、考察した内容です。
いつものたけしのおしゃべり口調なので、読みやすい。

道徳とは、自分で考えるもの、というのが基本的な主張。
子供に教えるべきなのは、シンプルなことだけでいい。
自分で考える力をつけさせることだと。
主張といっても、経験談をたくさんまじえて、さばさばと語られます。

小学1年生の教科書に「自分を見つめる」とあるそう。
これは‥ツッコミどころ満載と言われても仕方ないですね。
老人に席を譲ると気持ちがいい、といった例が挙げられているらしい‥
う~ん、まあ、そういったところなんでしょうか。

いいことをすると気持ちがいいのはなぜか?
人間は集団で生きるものだから、おそらく何万年も前からそういう気持ちは育まれているのでは、と。

芸人の世界では挨拶と礼儀が大事で、先にこの世界に入った人は先輩として立てる、これだけは教えるそう。
成功する人はみな挨拶はきちんとするし、人当たりも良い。
向上心があれば、必ずそうなる、という言葉に、さすが長いキャリアだけあって説得力があるなと感じました。

道徳を教えないと世の中が乱れる、今の若い者はなってない、といった考えもあるが、それはちょっと違うのではないか。
今の日本の若者は、昔の日本人以上にある意味よほど真面目で、世界でも珍しいほど犯罪発生率が少ないのだという事実がある。
そうそう、そうなんですよね。

日本人には宗教の裏付けがないから、弱いところもある。
ただし、それは長所にもなり得る。
寛容に受け入れ、お祭りなどの楽しみは増やして、共存して生きていけるという。

道徳というか社会の価値観は時代によって変わるもの。
変わってしまうものだということ。
細かく教えて試験をして成績をつければ、大人が喜ぶこまっしゃくれた回答をする子供が増えるだけなのでは、と。まさかそういう、大人の言うことを聞く子供を増やしたいわけじゃないでしょうね?と。
これは皮肉か疑念か。
当たっているかもしれませんね。

道徳について考える時間を持つのは悪いことではないだろうし、情報は学校からだけ入るのではないから~
考える子供は考える、と思いますけどね!(笑)

2018年5月12日 (土)

「去就 隠蔽捜査6」

今野敏「去就 隠蔽捜査6」新潮社

人気の隠蔽捜査シリーズも、6作目。
タイトルにそう書いてあるのはわかりやすいんですが、間に5.5とかあるんですよね‥(笑)
日がたってしまったので、まずはこちらだけでも。
読んだ後、新作が待ちきれずに他のシリーズもかじってみましたが、やはりこれが一番!

大森署の署長の竜崎伸也は、堅物だがいたって合理主義者。
竜崎流のやり方で、どんどん仕事を進める毎日です。
管内で女性の連れ去り事件が起き、どんな可能性があるかとすばやく対策を練ります。

ストーカーによる犯行が疑われる中、新任の上役が権威を振りかざしてくるため、捜査の過程で何かと対立しがちになってしまうことに。
竜崎にしてみれば、対立するのも無意味なのだが。
一方、家庭でも娘の美紀に問題が起きていました。
婚約者との間にすれ違いが生じ、ストーカー疑惑に発展‥
父親として、竜崎は?
妻の冴子さんも、さすが肝の座ったいい味を出しています。

今回は署長らしく部下に任せて、ほとんど現場には出ることのない竜崎、だが打つべき手は全て打ち、何もかもお見通し(笑)
生安課の女性警官・根岸紅美がなかなか有望で魅力のありそうな新キャラで、戸高刑事と組むことになり、次の作品がまた楽しみになりました。
もう発行されています。

2018年2月17日 (土)

「よこまち余話」

木内昇「よこまち余話」中央公論社

一昔前の日本のどこか、長屋でひっそりと暮らす人たち。
市井の人情話のような始まりですが、美しい幻想譚へと広がりを見せていきます。
温かく、切ないお話でした。

天神様の裏手にある狭い路地。
そこに面した古い長屋に住むお針子の齣江は、光の入る窓辺で、いつも仕事をしています。
30半ばにはなっているかという年頃の落ち着いた女性。
かいに住む老いたトメさんは、何かと食べ物を分けてもらいに上がり込む。
魚屋の次男坊の浩三も、よく立ち寄っては昼寝をしたりしていました。

糸屋の若旦那は人造絹糸を売る話をしにきたり。
編笠をかぶった謎の人物が現れたり。
季節を感じながら丁寧に生きる庶民の暮らしぶりに、ほっとするような心地よさがあります。
齣江のしっとりした雰囲気と、浩三の無邪気な視線も相まって、一緒にずっといたいような気分に誘われますね。
「人にうまく伝わらないようなことばかり考えてる」
「そしたら、そこのところが、浩ちゃんなのね」
こんなことを言い合えるなんて。

まだ狐狸妖怪がいてもおかしくなかった時代の摩訶不可思議な要素がしだいに膨らんできて、トメさんの正体?が現れるようなシーンも。
明かされる齣江の一途な想いが、こちらの心にもずっと残ったまま。

作品の魅力を伝える言葉が見つからなくて、もどかしい思いをしていました。

この優しい手触り、織り上げられた世界の柔らかでいて確かな空気感はぜひ、読んでみて、味わってください。

2017年3月 4日 (土)

「宰領 隠蔽捜査5」

今野敏「隠蔽捜査5 宰領」新潮文庫

お気に入りのシリーズも5作目。
読みやすいので、少し読むのを延ばしていました。
一気に読み終わっちゃうので、もったいないから☆

大森警察署の署長・竜崎伸也は、もとは警察庁の官僚という大変なキャリア。
おそろしく堅物なのだが、合理主義者なため、じつは現場でも有能な男なのです。

警視庁の刑事部長の伊丹俊太郎から、衆議院議員の牛丸が行方不明になったという連絡を受けます。
牛丸を誘拐したという電話も来ましたが、神奈川からだったため、合同捜査が決定します。
じつは神奈川県警と警視庁は犬猿の仲?
前線本部に派遣された竜崎は、ピリピリした空気の中、本部がいっこうに機能していない様子に驚かされることに。 折りしも、竜崎の息子は浪人中で受験の時期を迎えており、家族も緊張していました。
そんなときに家を離れることになってしまったのですが‥
周りにはその心配を隠しているが署員にはバレバレの事情も抱えつつ。

横須賀で、対抗意識を剥き出しにする県警の刑事に手を焼きながらも、合理的に捜査方針を決めていく竜崎。
その判断の妥当さで捜査が進んでいき、当然のごとく、土地勘のある地元民を立てるやり方もとっていきます。
いつの間にか、納得していく刑事達。
そして、神奈川県警のSTSが現場で待機するクライマックスへ。

竜崎以外の人物がちょっと、おばかさんに見えてくるきらいはありますが~
ぐいぐい楽しく読めます。
幼馴染の伊丹との関係も、頑なな竜崎に対して伊丹の片思いっぽいのだが、相変わらず何となくにやにやさせられます。
そして、奥様のさすが、しっかりした賢夫人ぶり。
竜崎の考え方のスッキリしているところが、何と言っても、いいですね!

2016年10月11日 (火)

「猫の形をした幸福」

若夫婦が猫を飼い、とても幸せに暮らしていましたが‥?
愛あふれる切ない物語。

小手鞠るい「猫の形をした幸福」ポプラ文庫

若夫婦が猫を飼い、とても幸せに暮らしていましたが‥?
愛あふれる切ない物語。

彩乃と未知男は見合いで出会って一目惚れ。
すぐに結婚して北米にわたります。
どちらもバツイチで、抱えているものもありました。
理想的な相手と、きれいな田舎町で暮らすことに。
まるで少女の夢見た物語のように、甘く可愛らしい展開。

保護施設で見つけた長毛のうつくしい雄猫マキシモ。
猫のことで毎日笑い、夢中になり、猫を中心にすっぽりと愛に包まれた暮らしが積み重なってゆきます。
そして16年。
猫の病気を見守る日々から、喪失へ。
これまでの幸福が暗転したかのように、苦しむことになります。

愛猫との暮らしぶりと、その後の嘆きがあまりにリアル。
設定は私小説というわけではないのでしょうが。
猫を見送った辛さを、こういう形で描かずには、乗り越えられなかったのかも。

夫婦でも悲しみ方にも違いがあり、慰め合おうにも当初は互いの顔を見ても悲しみが増すばかり。
やがて、二人の胸の中に同じ形をした空洞があると思うに至ります。
やっと少しずつ、気持ちの整理がつきかけたところまで描かれています。
まったく身動きの取れないようだったのが、いつしかさらさらと変化していく兆し。
そのことを救いに。

経験があるので、気持ちはわかりすぎるほどでした。
でもね‥出会えた喜びは、別れの辛さよりもきっと強いと思うんですよ。
悲しみは完全に消えることはないけれど、苦しみはだんだん薄れていってくれます。
そして、愛と幸せな思い出は、いつまでも続きます。

2016年9月20日 (火)

「私のなかの彼女」

角田光代「私のなかの彼女」新潮社

プラチナ本という紹介があり、傑作を読み落としていたのか!?と読んでみました。
作家になる女性の話で、具体的には違っても、自伝的要素もあるのかもと思わせます。

本田和歌には、大学時代から、仙太郎という恋人がいました。
仙太郎はアーティストとして個性を認められ、ちょっとしたスターに。
とくにやりたいこともなく就職した和歌は、結婚を夢見つつ、置いていかれた気分。

祖母のタエが作家志望であったことを知り、どんなことがあったのか想像をめぐらして、初めて小説を書いてみます。
ボーナスでワープロを買い、記念にと応募した作品がなんと受賞。
母親には露骨に嫌がられますが、いつしか作家として生活することに。
祖母は若い頃、作家修行に先輩作家の元に身を寄せ、家族にとってはスキャンダルだったらしい?

売れなくなった仙太郎と、仕事に打ち込む一方の和歌とのすれ違い。
とうに別れてもいいのではと傍からは思うほどだけど、そんなものかも知れないですね‥
致命的なことが起きるまでは。

仕事にのめりこんでいく状態。
パートナーにわかってもらいたい気持ち、認めてほしい気持ち。
それが無理だと気づき始めても‥

祖母のタエについて少しずつわかっていくことがあり、そのときに応じて和歌の解釈も変わっていく。
最後のほうの解釈に救いが感じられます。
ちょっと痛いけど、それだけ、読み応えのある内容でした☆

2016年8月23日 (火)

「野菜畑で見る夢は」

小手鞠るい「野菜畑で見る夢は」文春文庫

とても可愛らしい小説。
タイトル、表紙イラスト、作者名そのまんまです。
小手鞠るいさん、初読み。

3人の女性の恋模様が、いとおしむような雰囲気をまとった、わかりやすい文章で、さわやかに語られていくお話。
ひとつのエピソードが次の短編へと絡んでいき‥
ああ、そういうことだったのか?と。
恋愛部分はよく読めばビターな要素も少し入ってますが、そこにはほとんど触れられない。
わくわくしたり、きゅんきゅんしたり。
ちょっとした問題もいつしか、あま~く解決☆

美味しそうなお料理が出てくるのも楽しいですね。
毎回、野菜や料理が絡んでくるため、ちょっとした知識も頭に入ります。

とても読みやすいですが、甘すぎると感じる人もいるかも?
ここまで可愛らしいのって、そうないので~
こういうものが読みたい!
という気分のときなら、最高ですよね。
気持ちのいい木陰で、取れたてのお野菜と、小さなデザートを楽しみながら☆

2016年6月 4日 (土)

「猫の惑星」

梶尾真治「猫の惑星」PHP研究所

この惑星の支配者は猫?
少年と猫が冒険するファンタジーSF。

イクオは、シテンという閉ざされた場所で、大勢の子供たちと暮らしているという設定。
ある種の素質を持った子供が集められ、超能力の訓練を受けて、いずれは卒業?してどこかへ行ってしまう。
ふだんは「ママ」たちが世話をしてくれています。
シテンの長は「パパ」で、すべてはパパの指示にしたがって行われていました。
離れたところに、普通の町もあるらしい。

イクオは、中庭で猫を眺めるのが好きでした。
いつしか、その中のボス的な存在のウリという猫と、テレパシーが通じるようになります。
ある事件が起きて、シテンを脱出することになったイクオは出会う人たちを助け、助けられながら、共に町へ向かいます。
賢い猫のウリからは、思いがけない話を聞くことに。
ほかの猫たちも次第に集まってきて‥?

設定は意外に?しっかりしたSFらしい導入だけど、この小人数でどう展開するのかな、まとまるのかな‥?
と思っていると~
なるほど、短い期間だけど命の危機もあり、ちょっとした切なさもあり、書き込みは少ないけど、小人数の中での展望や決着もあり。
いい意味でも軽い意味でもジュブナイル。
猫たちの個性や賢さは、わかる感じだし~
悪くない読後感でした☆

2016年3月 8日 (火)

「今日も一日きみを見てた」

角田光代「今日も一日きみを見てた」角川書店

初めて猫を飼った角田光代さん。
おずおずと可愛がり、感嘆し、だんだんと愛が深まっていく様子が、控えめな筆致で描かれています。

猫好きなら、わかるわかるの連発!
最初は犬派だった作者が書いているので、猫好きでない人にも、入っていけるでしょう。

トトちゃんの、なんて可愛らしいこと。
大きな目、柔らかい身体、お茶目な態度、優美なポーズ。
そっと寄りそってくれる猫らしい優しさと、猫らしくない?ちょっと、とぼけたところも(笑)
角田さんとダンナさまの撮った写真ならではの、信頼感溢れるくつろぎぶり。
見ているだけで、癒されますね。

どちらかといえば犬派と自認していた角田さん。
大ファンである作家(西原理恵子)さんから、いきなり、子猫が生まれたら欲しいならあげるという話をされて、驚きつつも、もともと猫好きなご主人は大喜び。もちろん、否やはありません。
ドキドキしながら一緒に、子猫が生まれるのを待つのです。
そして、後に‥
なぜ、あのとき、子猫をあげるといわれたのか、がわかり‥

猫飼いはすべての猫の幸せを願うようになる。
そのわけとは‥
共に暮らし、目で追い、触れ合い、心通い合う。
この幸せを多くの人が実感してくれますように。
出来るだけ長く続きますように☆

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