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おすすめ本

2019年2月17日 (日)

「ホワイトラビット」

伊坂幸太郎「ホワイトラビット」新潮社

人知れず起きた立てこもり事件を軽やかに面白おかしく。
伊坂ワールド全開です。
黒澤が出てくるのが嬉しいですね。

誘拐をビジネスとして、無理がない程度に行っている犯罪組織のメンバー、兎田。
若い起業家によるベンチャー企業のようなものだという。
ところが、経理の折尾が資金を持ち逃げ、若い兎田は最愛の妻・綿子ちゃんを誘拐されてしまいます。
めぐりめぐって不本意ながら、立てこもり事件に発展‥?
たまたま空き巣に入った泥棒や、いろいろな人物が絡み、え~っと誰が誰なんだっけ‥
一つ一つ、楽しみましょう。

オリオン座について蘊蓄を傾けるのが大好きというモチーフや、「レ・ミゼラブル」の小説を読み切った人物がいて、作者が「レ・ミゼラブル」風に介入してきたりと、一癖あるスパイス付き。

「レ・ミゼラブル」は19世紀の長い小説で、貧しさや制度の重圧などに苦しむ人々を描いた文豪ユーゴーの重厚な作品だけれど、娯楽の少なかった当時の人気連載でもあります。ミュージカルや映画になっているように、ドラマチックで面白いんですよ。
私はたまたま岩波文庫全巻読みました! そういう人、どれぐらいいるんでしょうかね(笑)
軽妙なこの作品とはある意味では正反対ですが、面白いという点では通じるものが?
文化が爛熟した上での軽みとでもいいましょうか。時代は変わりましたね~☆

2019年2月10日 (日)

「特捜部Q─自撮りする女たち─」

ユッシ・エーズラ・オールスン「特捜部Q─自撮りする女たち─」ハヤカワ・ポケット・ミステリ

「特捜部Q」もシリーズ7作目。
デンマークの大人気ミステリです。
地下の特捜部に追いやられているカール・マーク警部。
部下はほぼ警官ですらないメンバーで回しているが、事件の解決率はかなりのもの。
今回は秘書のローセに焦点が当てられています。

福祉国家として知られる北欧のデンマーク。
福祉事務所には給付を望む市民が詰めかけ、中には働く意志がなくなんとか言い訳してお金だけは貰おうという根性の人間も。
相手をする係員もストレスを抱えているのでした。
そんな状況で出会った気まぐれな若い娘たちが意気投合、思わぬことから犯罪に‥?
背景には、歴史を背負って破綻した家族たちの重いものも含まれるのですが。
おしゃれだけはする若いコたちの身勝手な言い草が情けないやら哀しいやら。
さらに、真面目な官吏のはずの担当者の切れっぷりのほうがすごくて、笑えてくるほど、ぶっ飛ばします。

ローセは有能だけど変わり者。というのはわかっていましたが、これほど壊れてしまうとは‥
鬼気迫る描写の後に、過去のつらい状況が明らかに。
現在の事件とも運悪く絡み合い‥
救いようがないと思われたいきさつがあっても、時とともにじわりと事態は動きます。
ローセを救おうと懸命に突き進むカール、アサド、ゴードンたち。
ラストに光が差し、泣かされます。

2019年2月 3日 (日)

「猫とアリス」

芦原すなお「猫とアリス」創元推理文庫

女探偵・笹野里子ものとしてはシリーズ2作目のよう。
図書館で背表紙を見て手に取りました。
中身は、「青蛇」と呼ばれる孤独な殺し屋の話といったほうがいい‥
タイトルが「青蛇」だったら読者が減る?(笑)

笹野里子は夫が遺した探偵事務所を継いで、淡々と仕事をしている40歳ぐらいの女性。
やる気もなさそうな冷静さだけど、ある刑事に惚れられているのをてきとうに逸しながら情報を引き出したり、実はけっこう有能で、勇敢さもある。
元教え子の調査を教師に依頼されてから、ある殺し屋の姿が行く先々でちらつくようになるのです。

里子が訓練を受けているジムのオーナーがかって教えていた青年。
何かを抱えた激しさのある彼に、スポーツとして格闘技のプロになってほしいとオーナーは願っていたのだが‥

猫を探してほしいという女の子の可愛い依頼に動き出すと、関係者の勤め先で、思わぬ関わりが出来ていき‥
猫は賢くて猫らしい猫です。
しゃれた会話とヒロインのさっぱりした性格で、すいすい読めます。
ある目的のために技を磨いた美しい殺し屋の思いと過去は痛ましいけれど、鮮烈な印象でまとまり、シャープでカッコいい。
これはなかなか、めっけもの~読後感は悪くなかったです。
さかのぼって前の作品も読みましたよ。

2019年1月31日 (木)

「道化と王」

ローズ・トレメイン「道化と王 ヨーロッパ歴史ノベル・コレクション」柏書房

17世紀イングランド、王政復古の時代。
宮廷に上がった医師の波乱の人生。

1660年代、英国ではクロムウェルの清教徒革命が終わり、処刑された前王の息子が復帰して、チャールズ2世となります。
清貧に飽きた人々は優雅で豪奢な生活を求め、宮廷は爛熟していきます。
ロバート・メリヴェルは、王の犬を治療したところから宮廷のお抱えとなり、王に気に入られて、道化のようになります。
かっての志はどこへやら、生真面目な学友ピアスには嘆かれますが。
王様に魅了されているメリヴェルは、王に愛されていると思っていました。

王の愛人シリアと結婚するよう命じられ、立派な屋敷を与えられることに。
それは王の数多い愛人の嫉妬の目をくらますためで、メリヴェルは名ばかりの妻になったシリアには疎まれ、宮廷からも引き離されてしまう結果に。
しかも、シリアを愛してしまったメリヴェルは王に追放されてしまいます。

一転して貧しい暮らしに‥
友人ピアスの勤める精神病院に転がり込み、治療を手伝うことになります。
そこで、純真な患者の女性に無垢な真心を向けられ、あらたな愛を知ることになります。
おりしもペストが流行し、ロンドンでは大火という、激動の時代。
愛嬌だけのような駄目男メリヴェルも実は~衝動的なだけあって行動的ではあるのです。
医術の覚えはあり、ついに‥?

歴史ミステリでもない歴史物を久しぶりに読んでみようと。
途中で、映画化された作品をずっと前に映画館で見たことに気づきました。
「恋の闇 愛の光」という‥
豪華な衣装は楽しめたし、小説でもそういった描写は詳しいです。
主演はロバート・ダウニーJrだったので、醜男という原作には合ってないけど(笑)
珍しい時代への興味深さと、重厚な描写で読み応えがありました。
お仕着せのお屋敷の召使いが後々までメリヴェルを待っていてくれたのが泣かせます。

2019年1月27日 (日)

「菜の花食堂のささやかな事件簿 きゅうりには絶好の日」

碧野圭「菜の花食堂のささやかな事件簿 きゅうりには絶好の日」だいわ文庫

「菜の花食堂のささやかな事件簿」シリーズ2冊め。
食堂のオーナーさんが日常に潜む謎を鮮やかにときます。

「菜の花食堂」は東京郊外の住宅街にある小さなお店。
地元の野菜をたっぷり使ったランチが評判です。
オーナーの靖子先生は、定休日に月2回、お料理教室も開いています。
ひょんなことから助手となった優希は、毎回楽しみに通っていました。
若い優希は主人公というより語り手ですね。

いつも駐車場に停まっている赤い自転車の謎。
近所で催された野外マルシェに出店したところ、ご飯も抜きのカレーだけが売れ始めた理由は?
ウドの料理法を教えてほしいと頼まれて考えたレシピが他で発表されて‥?
犯罪事件というほどじゃないかもしれないけれど、たしかにこれはちょっと問題よね!というケースばかり。

野菜の基本的な扱いからちょっと変わった味付けまで、毎日の食事にすぐ作れるメニューを教えてくれる靖子先生。
おだやかで優しく、知恵の宝庫みたい。
優希が慕うのもわかります。
1冊目では弱々しかった優希も、揺れながら少しずつ成長してくのでしょう。

靖子先生の内心は語られませんが~
最後のエピソードでは、靖子先生自身の問題がちょっと出てくるのが、お約束?
教室にも変化があるかもしれませんね。
続きも楽しみです☆

2019年1月24日 (木)

「オーロラの向こう側」

オーサ・ラーソン「オーロラの向こう側」ハヤカワ・ミステリ文庫

スウェーデンのミステリ、女性作家による女性弁護士ものです。
2003年にこの作品でデビューし、スウェーデン推理作家アカデミーの最優秀新人賞を受賞。

レベッカ・マーティンソンは首都で働く若い弁護士。
大きな事務所に入れたはいいがまだ弁護士になりたてでこき使われ、上司とうまくいっていないのが悩み。
そんなところへ、故郷の教会での事件の報が。
被害者の姉サンナから、助けを求める電話が入る‥

嫌な思いをして故郷を離れたレベッカでしたが、かっての親友を見捨てられず、7年ぶりに北の町キールナへ。
オーロラが珍しくないという北極圏にある寒村。
サンナの弟は、交通事故で一度死んで生き返った経験で天国へ行ったと評判となり、キールナで信仰を盛り上げた存在でした。
レベッカもよく知る人達との、複雑な再会。
やがて、専門知識を生かして真相に迫るが、レベッカの身にも危険が‥?

キールナの警察に勤める警官たち、とくに身重のアンナ=マリア・メラ警部の存在が光ります。次作以降も登場するようですね。
美しい旧友サンナはなかなか厄介な性格のようで‥
嫌な奴てんこ盛り!
レベッカの祖母の家の隣に住む老人シヴィングが優しくて、ほっとします。

厳しい上司のモーンスは意外とレベッカをじつは気に入っているんだけど、それが表せないらしい‥有能な弁護士のくせに口下手?
信頼関係が生まれるのかそれ以上になるのかは、まだ未知数。

レベッカの性格は当初はまじめでちょっと人がいいのかという感じだけど、苦難に耐え抜いていく強さがあるようです。
続いて発表された作品では、レベルの高いスウェーデンミステリ界で最優秀賞を受賞しているので、楽しみです☆

2019年1月20日 (日)

「三鬼」

宮部みゆき「三鬼 三島屋変調百物語四之続」日本経済新聞出版社

三島屋変調百物語の4冊目。
中編が4本入った充実した内容です。

神田の人気ある袋物屋「三島屋」では、変わり百物語も評判となっていました。
不思議な経験を語りたい人を一度に一人ずつ迎え、姪のおちかが一人で話を聞き、おちかが叔父に一通り話した後は、「話して話し捨て、聞いて聞き捨て」というお約束。

第一話 迷いの旅籠
名主と共に村から出てきた百姓の女の子が語ったのは、幽霊を見た話。
先祖を迎える行灯祭りが禁じられてしまったため、村外れの空き家を行灯に見立てて飾る行事が行われました。
ところがそこへ、亡くなった人が姿を見せてしかも留まり‥?

第二話 食客ひだる神
箱根の七湯巡りをした夫婦に、ひだる神が取り憑いた?
商売は繁盛するが‥
気のいい夫婦はついに?
微笑ましい成り行き。

第三話 三鬼
お武家のしかもとある藩の江戸家老という大人の男性の訪問。
若い頃に左遷されて北部の寒村へ赴任した。
閑職のようだが、逃散もあったり獣害の危険もある土地で、腕が立つ侍がいる必要があったのだ‥
貧しい郷の悲惨な現実を思わせます。

第四話 おくらさま
島田髷を結い、娘のような振り袖を着た老女が登場。
生家では「おくらさま」に毎日捧げ物をしていたと。
だがそのために、犠牲になり‥?
姿の消えた老女が何者だったか、探し始めるおちか達。

おちかの身の上にも変化が起きるかもしれない、という思わぬ出会いがあります。
素直な若い娘には辛すぎる過去を抱えたおちか。
作品も中編にしておくにはもったいないような重みがありますが、これぐらい世間の広さ深さを感じることでやっと、おちかも少しは気持ちを立て直せるのでしょうか。
幸せを祈ります。

2019年1月13日 (日)

「バッキンガム宮殿のVIP」

スーザン・イーリア・マクニール「バッキンガム宮殿のVIP」創元推理文庫

マギー・ホープのシリーズ第6作。
ロンドンに戻ったマギーが、連続殺人事件の捜査で活躍します。

アメリカ育ちの英国人、マギー・ホープ。
戦時下のロンドンでスパイの訓練を受け、数々の試練をこなしてきました。
特別作戦執行部(SOE)で働いていたところ、採用した女性が不審な死を遂げ、マギーはMI-5の依頼で捜査に加わることに。

スコットランドヤードの警部ダージンは、これまでマギーが付き合ってきたエリートの若者とは違う人種。
若いマギーを見ても最初は世間知らずの女の子ぐらいにしか思わず、他のお偉いさんときたらさらにサイテー(笑)
男性が戦地に駆り出されたために女性の社会進出が進む一方で、まだ格差はあからさまという。
優秀で生きのいいマギーは鼻をあかせるか?(笑)

戦況も暗い時期のうえ、女性の連続殺人はまるで切り裂きジャックを真似たよう。
異父妹がドイツにいるマギーには、そちらも心配。
妹はナチスの圧力をなんとか、かわしながら、生きているのですが‥

事件の中心へ切り込むマギー。
いつもVIPの傍にいる立場なのは、作者は歴史的な危機をありありと体験するかのように描きたいのでしょう。
超人的という設定ではありませんが、かなり優秀でないと大事件に関われませんよね。
不安要素だらけの苦境を生き抜くことになるだろう勇気の物語ですね。

2019年1月10日 (木)

「昨日のまこと、今日のうそ」

宇江佐真理「昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話」文春文庫

人気シリーズも終盤です。
惜しくて、大事に少しずつ読んできましたが‥

廻り髪結いの伊三次は、同心の不破親子の手伝いもしています。
江戸市中で起きるいくつかの事件の探索と交えながら、身近な人間模様を描いていきます。

不破の娘・茜は、松前藩の奥女中。剣の腕を見込まれての警護役ですが、若君に気に入られていました。
側室にと望まれて、最初はとんでもないと思った茜ですが‥
お世継ぎ争いに巻き込まれそうになります。

伊三次の弟子の九兵衛は、大きな魚屋の娘と縁組が決まっていたのですが、身分違いがどうしても気になっていました。祝言を前に、一旦はやめようと決めたのですが‥?
そっと見守る伊三次には、すべてお見通し(笑)

伊三次の息子の伊与太は、若い師匠のもとで絵の修行中。
才能のある新弟子が入ってきて悩んでいるときに、思わぬ批判を受けて落ち込みます。
葛飾北斎と娘のお栄がさりげなく慰めてくれるのは、伊与太のほうにも才能や人柄がいいところがあるのを認めてもらえたのかな、なんて。
ちょっと嬉しくなりますね。

不破龍之進ときいの間には(前作の終わりに)子供が生まれました。
妹の茜が突然里帰りするというので、大慌てで御一行を迎える準備をする不破一家。
さっさか一人で歩いてきた茜に、驚くやらほっとするやら。
悲しい思いをした茜も落ち着いてきた様子。詳しいことを知らぬままの家族も、何かを察していたのでした。

これまでの長い物語、一人一人の挫折や迷い、紆余曲折があってのこと。
ほのかに心が通い合う様子に、こちらも胸に染み入る思いがしました。

2019年1月 5日 (土)

「古書奇譚」

チャーリー・ラヴェット「古書奇譚」集英社文庫

古書商が手にとった本には、あのシェイクスピア本人の書き込みが‥?
妻をなくした気弱な男が、古書を巡る冒険に巻き込まれます。渋いタイトルの割に、のりは軽くて読みやすいですよ。

ピーター・バイアリーは古書商。
最愛の妻アマンダをなくして9ヶ月、二人で住むはずだった片田舎の家に引きこもりがち。
鑑定を頼まれて、近所の屋敷に出向きます。気難しい住人の所蔵していた本には‥

最近のことだけでなく~
学生時代のアマンダとの出会いから12年に渡る愛のなりゆきも、少しずつ描かれます。
大人しい文系男子の夢?
図書館に通ってくる美女に声をかけてもらい、スムーズに上手く行っちゃう、しかも相手はお金持ちって(笑)
不思議な縁には、ややファンタジックな要素もあります。
こういうのが好きかどうか?で評価は分かれるかも。

シェイクスピアの時代の出来事と、問題の本が手から手へと渡っていく年月もありありと書かれていて、この部分が面白い。
ピーターが手にとったのは、本当に本物なのか?
それにもう一つの謎、アマンダそっくりの顔をした美女の古い肖像画の謎も。
交互に描かれつつ話が絡み合うのは、だいたいは上手く行っているのですが、傑作になるにはもう一歩かなぁ‥おもに構成が。あと少し、という気がするんですが。
とはいえ、十分、楽しめました!☆

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