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2012年8月 4日 (土)

「春になったら苺を摘みに」

梨木香歩「春になったら苺を摘みに」新潮文庫

イギリスに留学した体験を描いたエッセイ。
丁寧な文章で、真摯で独特な視点でとらえられた情景に、なんだか今まで動いたことのない悩の部分を刺激されます。
ユーモラスな出来事や、人の暖かさが心地良い。

おもに、下宿先のウェスト夫人との交流が描かれます。
素敵な人ですね。
学校教師で児童文学作家でもありました。
どんな人にも手をさしのべようとするホスピタリティに満ちているため、面倒な相手の世話を背負い込むことにもなるのですが。

著者がイギリスに半年滞在していたとき、その20年前の学生時代に下宿していたウェスト夫人の元を訪れます。
そこはロンドンよりも北のエセックス州、S・ワーデンという町。

「ジョーのこと」では、ウェスト夫人に紹介されて知り合ったジョーという女性の思い出。
地元で教師をしていたジョーは、大家族で育ち、快活で子どもの世話が上手。
ジョーは信じられないぐらいドラマティックなことが起きる身の上だとウェスト夫人が称していたのです。
後にジョーの元彼が舞い戻ってきて、実はインドで結婚もして妻子有りらしいと途中で知れたのです。
心配したウェスト夫人にそれを知らされた著者も、具体的には触れることができずに、ただジョーを応援する手紙を書くのでした。
が、エイドリアンはふいに姿を消し、ジョーも、消息が知れなくなってしまう。
「人間には、どこまでも巻き込まれていこうと意志する権利もあるのよ」と彼女なら言いそうだと思う著者。

「王様になったアダ」は、ナイジェリアのファミリーに困った話。
わがままで傲然としていて、お礼も言わない。
身分が高く、後に一家の父親アダは本当に王様になったのでした。

「ボヴァリー夫人は誰?」は近所に越してきた脚本家の女性ハイディが、うっかりした発言で反感を買う。
反核運動が盛んな頃で、著者も近所の人と共に参加していました。
そういう土地柄なのに、ボヴァリー夫人の現代性を語るときに、「地元の女性のほとんどが専業主婦で有り余る時間をもてあまし幼稚化している」と書いてしまったのです。
ウェスト夫人はさりげなく和解の場を設けるのでした。

「子ども部屋」は一人で旅行中の出来事と、その時々に思い出した出会いの話。
ウェスト夫人の元夫のナニーの話が印象深いです。
元夫は、ヨークシャの裕福な地主の家柄。
ドリスという女性は子守りとして8歳から奉公に来て、家事一切をするナニーとして、88歳まで独身でその家に仕えました。
ウェスト夫人はお茶もいれられない若妻として、家事を教わったのです。

ウェスト夫人は、もとはアメリカ生まれ。
親がクエーカー教徒だったわけではないが、途中で共感して自らそうなったそう。
ウェスト夫人の父親は、戦争で銃を持つことを最後まで拒否した人だったという。
夫人の3人の子はインド人のグルに傾倒して、グルに付き従ってアメリカへ渡ってしまう。ある意味、親に似たのでしょうか。
その数年後に出会った著者。
空いていた子ども部屋には、児童文学の蔵書がみごとに揃っていたそう。

2001年末のウェスト夫人からの手紙で締めくくられています。
春になったら苺を摘みに行きましょう、と。
著者は1959年生まれ。
映画化された「西の魔女が死んだ」など、作品多数。

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