フォト

おすすめ本

« 「白の祝宴」 | トップページ | 海と太陽さんのご対面 »

2012年6月 5日 (火)

「ビター・メモリー」

サラ・パレツキー「ビター・メモリー」ハヤカワ・ミステリ文庫

シカゴの女私立探偵V.I.ウォーショースキーのシリーズ、第十弾。
2001年の発表。
パレツキーは、2002年にCWAのダイヤモンド・ダガー(巨匠賞)、2011年には、MWAのグランドマスター賞を受賞しています。

V.I.ことヴィクの恋人モレルは、ジャーナリスト。
モレルのアフガン行きが決まり、危険な取材になることを心配しつつ、別れを惜しむ日々。
黒人労働者サマーズの家庭で、保険請求が断られた不審な事情の調査を依頼されます。
ところが、代理店の男性が殺されてしまう。

折しも保険会社や銀行に対して、ユダヤ人や黒人の損害賠償の抗議行動が起きていました。
ホロコーストについて話し合う会議が行われていて、ロティの恋人マックスも関わっています。
テレビに出ていた男性ポール・ラドブーカが、催眠療法で記憶を取り戻したと、幼い頃の悲劇を語っていました。
それを見たマックスと、友人のカールは顔色を変えます。
二人とも、かってヨーロッパから逃れてきたのです。
その男性ポールが突然マックスの家に押しかけてきて、いつも冷静なロティが失神してしまう。

見るからに情緒不安定なポールを、我が物のように誇らしげにしているセラピストのリーアに不審を抱くヴィク。
ポールは、マックスを身内と思いこんでしまった様子。

ロティは、高名な外科の女医。ヴィクの親友で、母親代わりのような存在でもあります。
ロティの独白から始まり、これが数回入って、次第に過去が明らかになっていく…
もとはオーストリアの名家の出でしたが、ユダヤ人なので、ナチスの手で幼い頃にすべてを奪われたのです。
少女時代に特異な境遇にあった痛み。医師として人生を築き上げていった気丈なロティの核の部分が、丁寧に描かれています。

忙しい最中にも、ヴィクはモレルとの別れを惜しみつつ…
多難な事件の渦中で、胸の痛む思いをするヴィクでした。
苦しみのあまり何も語ろうとしないロティは、ついに行方をくらましてしまう。
事件との関連を解きほぐしながら、ロティを助けるために、少しずつ事情を探っていくのです。
ロティのほうも、やがてヴィクの苦しみに気づきます。
大事な人に寄り添う気持ちが感動的。

このシリーズは、女探偵ものの時代の先陣を切ったもの。
デビュー当時から読んでいましたが、一時離れていました。
アメリカの企業犯罪にそこまで興味が持てないのと、書き込みが重厚になってきたのが読むのにしんどい場合があったからかな。
どこから読んでないのかわからなくなって、幾つか再読。
これは初めてで、これで一通り読んだとわかりました。
この作品の前のものが結構ハードで(題名も「ハードタイム」)、この作品は最初ハードカバーで発行され、ロティの過去が重そうということもあって、後回しにしていたようです。ロティ自身が収容所に入っていたわけではないので、読むのが辛いほどではありませんでした。

何事があってもくじけないヴィクのパワフルさは現在、あらためて貴重です。
9.11以後も沈黙しないパレツキー自身の胆力と同様に。

« 「白の祝宴」 | トップページ | 海と太陽さんのご対面 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「ビター・メモリー」:

« 「白の祝宴」 | トップページ | 海と太陽さんのご対面 »

2019年7月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

カテゴリー

最近のトラックバック

無料ブログはココログ