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2012年5月28日 (月)

「開かせていただき光栄です」

皆川博子「開かせていただき光栄です」早川書房

皆川博子が82歳で、18世紀イギリスを舞台に描いた小説。
新境地というのが凄いですね。
外科医の地位が低く見られ、解剖など忌み嫌われていた頃。
医学の発展のために、解剖に取り組んだ外科医とその弟子たちが、巻き込まれた事件。

外科医のダニエル・バートンは警吏に解剖教室に踏み込まれ、弟子達が急いで遺体を暖炉の内側に隠します。
そういう場合に隠せるように、改造してあったのでした。
遺体は墓あばきから買い取ったものですが、家族から訴えがあったのです。
その場はごまかしますが、後で見覚えのない死体が見つかり…しかも、殺されたのはありあり。

余分な死体は、一体誰が?
ダニエルの内弟子で頭の切れるリーダー格のエドと、デッサンに才能があるナイジェルら5人の弟子たちは、この事態を切り抜けられるのか?
暖炉の構造の秘密を知る仲間に容疑が掛かることを恐れて、嘘を重ねていきます。

18世紀当時は、まだ警察組織がしっかりしていなかった時代。
警察のようなものに強い権力を持たせることが、危ぶまれていたのです。
もともと治安判事は名誉職のようなもの。判事邸で尋問を行っていました。
先代の治安判事ヘンリー・フィールディングが初めて組織を改革し、直属の保安要員を雇うことにしたのです。
判事邸のあるボウ街の名を取って、彼らはボウ・ストリート・ランナーズと呼ばれていました。

その跡を継いだ異母弟のジョン・フィールディングは、盲目。
声を聞いただけで犯人を見抜くという評判が立つほどの敏腕で、実際に声や触っている手の震えで、嘘に気づくことも、ままありました。
利発な姪アンを目の代わりに、力持ちのアボットも助手に連れ歩きながら、事件の捜査に当たります。

ネイサン・カレンという17歳の少年が田舎からロンドンに出てきて、大いに戸惑いながら、何とか生きていこうとする様子が挿入されます。
猥雑で、汚物が道路に溢れ、掏摸が横行するロンドン。
ネイサンは父が譲り受けた古本の中から古書を発見したので、本屋にそれを見せ、また自分が描いた詩を持ち込んで、詩人としてやっていきたいという夢を抱いていました。
ハリントンが主催する新聞に、風刺詩を書く仕事にありつくネイサン。
本屋で出会った令嬢エレインに、ネイサンはフランス語の「マノン・レスコー」「モール・フランダース」を翻訳して聞かせることになります。

当時、盗みは大きな罪とされて、金額にかかわらず死刑が当たり前。
減刑されて、新大陸送りになる場合も。
そういう話は「マノン・レスコー」「モール・フランダース」にも出ていましたっけ。
産業が起こり、株式投資が始まって、大きく揺れ動く時代。
世界初のバブルの崩壊も起きた頃です。
それらがどう、絡み合ってくるのか…?

時代色豊かで、スリリング。
ディケンズ的な要素もあります。
当時の裁判の特殊性なども絡んで、二転三転する推理も面白く、最後まで興味が尽きませんでした。

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